地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

スノボでお尻が崩壊【地獄のイラストエッセイ】

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 寒いのが大嫌いな私は冬になると『妖怪コタツミカン』というあまりに古典的な物の怪になるのだが、リア充の皆さんは冬になるとイソイソと雪山に向かい、スノボをする。リア充と言えばスノボであり、スノボと言えばリア充なのだ。

  そんな冬を楽しむ彼らとは正反対の妖怪コタツミカンは重度の高所恐怖症なうえ、生身でしかもあんな板切れ一枚で猛スピードを出すなんて正気の沙汰ではないと、これまで一度もスノボをしたことがなかった。

 そんな頑なにスノボを拒否して生きてきた私だが、二十六歳の冬にカナダでついにスノボデビューを果たした。有名らしいブルーマウンテンという山で滑ろうという語学学校の企画で、友人達から「一万円ぐらいでカナダの伝説の山を滑れるんだぜ!」と言われ、そんなに良い場所ならと、食わず嫌いせず一度試してみることにした。これまで日本で十回以上誘いを断ってきたが、カナダに来て私は気が緩んでしまっていたのだ。そしてこの気の緩みが私を地獄へと叩き落すことになった。

 学校企画の激安ツアーにつき、地獄行きのバスは大変混雑していた。私は車内で日本人と台湾人によるスノボ素人四人衆を結成し、上手いと噂の女の子をコーチに立てた。そして抜け駆けして一人で勝手にスイスイ滑れるようになることを禁止した。まさに泥沼での足の引っ張り合いである。

 バスが地獄に到着し、我々は貸し出されたウェアに着替えた。他の皆は白い雪の中でも映える水色や緑などのオシャレなウェアなのに、私のウェアだけジャガイモみたいな糞ダサいベージュだったので「替えてくれ」と頼んだら「お前のはそれだ」と断られた。いいだろう、遭難したら大地に根を張ってジャガイモを芽吹かせてやる。

 コーチの女友達に連れられ、我々は初心者用の、高さが十メートルほどしかない丘のような場所で“木の葉滑り”なる、右へ左へとまるで木の葉が風にそよがれて落ちていくような、初心者しか絶対にやらない滑り方を教わった。だがこれでさえ我々にとってはかなりの恐怖で、数えきれないほど転び、やれ「転ばない滑り方を教えろ」やら「何で転ぶんだ」などと心の赴くままに文句を垂れた。どうして彼女はスノボの聖地にまで来てこんなクソ野郎達の世話をしてくれているのだろう。

 昼食後、転びまくって真っ赤に腫れ上がったお尻をケアしている我々に、コーチは「次はいよいよロープウェイに乗ってコースを滑ってみよう」と言った。彼女は難易度別に色分けされたマップを見て、真ん中にある初心者用のコースに行こうと言った。さんざん足首や首を捻り、いいだけ頭やお尻を打ちながら、我々は転ばないことだけに全神経を集中させ、周りに助けられながら木の葉滑りで二周滑った。

 案外滑れるようになってきたんじゃないかと調子に乗った私は、マップの一番左端にあるもう一つの初心者用コースに行ってみようと提案した。彼女は「かなり長いしカーブもあるから初心者用とはいえちょっと難しいかもよ」と忠告したが、気の大きくなった我々は聞き耳を持たずにコースへのロープウェイを上った。

 たしかにちょくちょくと曲がりくねっているが、先ほどまでのように何度も尻もちをつきながらゆっくりと木の葉で滑れば余裕だと高を括って滑り始めたのだが、地獄への扉はその先で待ち構えていた。曲がりくねった細道を抜けると、前方に広がっているはずの道が無いのだ。
「ぬ?」
 我々は「おかしいな道が見えないぞ」と口々に言い合って不思議に思いながら、見えている道の先端部分まで近付き、愕然とした。
 道は無くなっていたのではない。突如凄まじい急坂に変わっていたために遠目には先が見えなかったのだ。
「えっここ降りんの?」
 素人四人衆は顔面蒼白でお互いの顔面を見合った。コーチは「ハハ、ちょっと難しいかもね……」と半笑いで遠巻きに我々を哀れんだ。

 ここからは自分達にとって、そして追随する他のスノーボーダーにとっても地獄絵図だった。縦にも横にも広い急坂の隅っこで、ダンゴのように固まって数センチ単位で坂を下るエイジアン四人組。
 我々は板で滑るという行為を早々に放棄し、一人は外した板をピッケルのように刺しながら数センチずつ進み、一人は外した板を胸に抱えて一歩ずつ歩を進め、一人はうつ伏せ状態で徐々にズリ落ち、そして私はほふく前進をしていた。

「ゆっくり降りよう!」
「転げ落ちないように気を付けて!」
「あー足捻った!」
「痛いまたお尻打った!」
「もう一歩も動けない!」
「大丈夫! 俺達はこの窮地を脱してトロントに帰るんだ!」

 戦場で明日への希望を語る兵士のようなやり取りが、ブルーマウンテンの空にこだまする。さすがに可哀想に思った我々はコーチを自由の身にしたため、今は本当に素人四人衆のダンゴだけが坂をゆっくりと転がっている。
 彼女は別れて七分ほどで再び我々の前に姿を現して「今半分ぐらいだよ! 頑張って!」と言って再び去っていった。彼女的にはあと半分で終わるよと勇気づけようとしたのだろうが、いつ終わるのだと必死に進んでいた我々は、まだこの地獄が折り返し地点でしかないと知り、更なる絶望の深淵へと叩き落された。

 コーチがわずかな時間で滑り終えたこの地獄のコースを、我々はなんと二時間かけて下山した。ほとんど滑っていないので、下山という言葉が一番ふさわしいように思う。
 我々四人は共通してお尻がサルのように赤くなり、そしてスノボにトラウマを持つようになった。私はお尻が痛すぎて座ることさえ困難な状態に陥り、翌日学校を休んだ。

 やはりスノボは私のような人間が手を出すべきではなかったのだ。今ではすっかり以前以上に強い拒否反応を示すようになり、検討の余地なく誘いを断るようになってしまった。
 運動神経は良い方の私が、どうしてスノボはこんなにもダメなのだろう? 疑問である。だが金輪際スノボをしないと誓った私には、もうその答えを見つけることは出来ないだろう。

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