地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

エクストリームミルクチョコ味のソファ【地獄のイラストエッセイ】

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 前回“貧弱なお尻の悩み解消~ソファ編~”で紹介した、私の貧弱な尻を守るガーディアンことピグレットソファに先日大事件が起きた。
 その日の午後も私は育児休暇で家におり、娘の世話のバトンを妻に渡し終えたので昼食のプロテインを準備することにした。

  今日選んだのはムキムキマンの友人に教えてもらった“ゴールドスタンダードのエクストリームミルクチョコレート味”だ。一回あたり良質なたんぱく質を二十四グラムも摂取できるという優れモノで、私は「尻よ大きくなれ! 尻よ! うーん!」とまるでトトロ達が木を伸ばすみたいに尻に念じながらプロテインをシェイクし、自室へと運んだ。

 私はいつも朝食はユーネクストのアニメを見ながら食べるので、プロテインをソファ前のテーブルに置くとパソコンのスリープを解除して視聴の準備をした。
 だがそれがいけなかった。私は空間把握能力に関しては自信があったのだが、その自信が過信を生んだのだ。特に手元に注意を払うでもなく適当にマウスを操作したがために、腕がシェイカーにぶつかり、三百ミリリットルものエクストリームミルクチョコレート味のプロテイン(以下『エクストリーム』と呼ぶ)を内包したシェイカーはあっという間に倒れ、中身はテーブルを勢いよく縦断し、私のソファ二台をビッチョビチョに濡らした。

「あわわわわわわわっ! わっ! わっ! わっ!」
 私はアメリカ人のように頭を抱えてひと通りビックリした旨を表現すると、即座にシェイカーを立て、千手観音でも憑依しているかのような尋常でない速度で引き抜いたティッシュで、ボタボタとテーブルから流れ落ちるエクストリームを拭いた。それが終わるとビッチョリとエクストリームが染み込んだであろう私の尻のガーディアンを持ち上げ、水分を拭き取った。だが拭いている最中、私は嫌な予感がして、尻のガーディアンその一から少しのスペースを空けて並べてあるもう一つの尻のガーディアンを持ち上げてみた。

 ボタボタボタボタ……

「アイヤー!」
 なんとエクストリームは二台の尻のガーディアンをビッチョビチョにしていたのだ。なんという事だ……。
 私は再び千手観音を召喚すると凄まじい速度で拭き取り、台所から猛ダッシュで運んできたウエットティッシュで尻のガーディアンを叩きまくった。
「出ろ! 出ろ! 出ろ! 出ろ!」
 怨念のこもった殴打によって表面上のエクストリームはあらかた叩き出したが、絶対に中に染み込んでいる。敵はただの水ではない、エクストリームミルクチョコレート味のプロテインなのだ。放っておいては甘ったるい臭いが取れないどころか虫が湧きそうだ。私はこの世で虫が一番恐い。虫なんか湧いた日には秒速でこの尻のガーディアンを葬り去らなくてはならない。
 私はすぐに尻のガーディアン二台をベランダに干した。幸い今日はカンカン照り。日光で多少の臭いは取れるのではないだろうか……。そう願ってはみたものの、やはりどう考えても臭い。じつはこのエクストリーム、水ではなく牛乳で作っていたため余計に臭いのだ。

「あかん! 臭い!」
 風に乗ってやってきた牛乳とミルクチョコの激臭が鼻孔をつき、私は大変ショックを受けた。購入しておよそ三年間、私の貧弱な尻を毎日支えてくれた尻のガーディアンが、よりにもよってこんなにもエクストリームな臭いに身を染めることになるとは夢にも思っていなかったのだ。
 私は棚からファブリーズを取り出すと、無心で噴射しまくった。

 シュッシュッシュッシュッ……

 単調なその音とは裏腹に、私の脳内では尻のガーディアンと出会ってからこれまでの生活の記憶がヴィジョンとなって流れていた。

「お届け物でーす」配達員のチャイムと共にやって来た君は想像以上の大きさで、僕を驚かせてくれたね。シュッシュ
 最初は一つしかあまり使っていなかったけれど、最近は倒した君の上に娘を寝転ばせ、ハイハイの練習をさせてくれたね。ありがとう。シュッシュ
 取り込んだ洗濯物を君の上に載せて畳むようになってからはずいぶんと効率が良くなったよ。ありがとう。シュッシュ

 どれほどの時間、無心でファブリーズを噴射していただろう。私はずいぶんと軽くなったファブリーズと、ファブリーズでさらにビッチョビチョになった尻のガーディアンを横目にその場に座り込んだ。私の不注意で、大切なものが失われてしまうかもしれない。その恐怖が心の奥から染み出してきたのだ。

 夕方、私は尻のガーディアン二台を部屋に入れた。鼻孔を劈くような激臭こそしないものの、やはりまだずいぶんと牛乳臭い。とりあえず経過を見守ろうということにして、私はそれから二週間ほどの間、一日一回ファブリーズを噴射し、さらに“古着屋のにおい”と評判のお香を患部に当たるよう焚きまくった。

 あの大事件からおよそひと月が経った。コロナ禍は前にも増して酷くなり、学生や企業は疲弊していた。
 だが私の尻のガーディアンは以前の状態を取り戻していた! ファブリーズ効果か時間経過によるものなのかは分からないが、なんと臭いがほぼ百パーセント消えたのである!心配していた虫もまったく来ず、私と尻のガーディアンは以前と同じ平穏を取り戻した。
 だが私はそれ以降エクストリームはもちろん、チョコレート味のプロテインを飲めなくなってしまった。尻のガーディアンを傷つけた憎き敵なのだ。仕方あるまい。現在は新しく買った抹茶味とミルクラテ味のプロテインを飲んでいるのだが、どちらもダマになりまくるので困っている。キューピーで働くムキムキマンに相談したところ振り方が悪いと言われたので、今朝さっそくキューピー式の横振りを試したのだが、やはりダマになりまくった。やはり牛乳ではダマになるのだろうか。
 貧弱なお尻の悩みはこれからも絶えないだろう。

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