地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

虫歯大魔王がフッ素で幸せになった

 私の歯はゴミカスだ。おそらく小学生の頃に歯磨きをきちんとしなかったことで歯がボロボロになったのではないかと思っている。
“人生最大の痛みは本能寺の変”でも書いたとおり、昔は痛みが本格化するまで歯医者に行かなかったのだが、地獄のような痛みに凝りた私はすこし前から定期的に歯の検診に行き、日々のケアだってデンタルフロスや糸ようじで歯間の汚れを落とし、ソニッケアの電動歯ブラシでしっかり磨き、ミントがダメなので子ども用の物ではあるがマウスウォッシュだって使うようになった。

 だが三カ月に一回定期健診に行くと「水無さん、また虫歯があちこちありますね」と言われ、絶望する。
 いったい何だと言うのだ私の歯は。いい加減にしてほしい。これ以上何かを求められたってどうしようもない。いっそ全部引っこ抜いて入れ歯にしたいくらいだ。

 そう文句を言いながら仕事の休憩時間に歯医者へ行く生活を一年ほど続けていたのだが、このコロナ禍で育休を延長し、我が家で過ごす日々を送っていたある日、歯の詰め物が突然ポロリと取れた。
 なんということだ。また歯医者に行かなくてはならない。だが定期健診にも行けていなかったのでちょうどいい機会かとも思ったのだが、いつもの歯医者に行くには電車に乗らなくてはならない。お金もかかるし、コロナだって怖い。
 そこで私は近所の歯医者をグーグルマップで探し、レビューの一番高い歯医者に行くことにした。

 予約同日、いざ訪れてみると開業してまだ二年ということもあり、数多の歯医者のお世話になってきた私史上最高に綺麗な歯医者だった。レビューが高評価なのも頷ける。これは期待大である。

 私は詰め物が取れた旨を伝えて歯をあんぐりすると「おや、かなり歯医者に行かれていたようですね。歯でかなり苦労なさっているとお見受けします」と先生は言った。よく分かっている。好感度アップだ。
 そしてまず最初に口内を色々見せてくれと言われたので黙って口を開けていると、二、三分で「終わりましたので一度起こします」と言われた。
 すると目の前の三十二型ほどある液晶に、私の口内の汚らしい写真が次々と映し出されていくではないか。さっきチェックしながら小型カメラで撮っていたのだ。初めての出来事にドギマギしていると、先生は画像を見ながらいたる所の詰め物がかなり摩耗していること、各所に虫歯があることなどを説明してくれた。こんな診察は初めてだったが、目で見るとじつに納得出来る。私の口内は本当に汚い。

 そしてその後も動画や資料を見ながら虫歯が出来ていく工程などをしっかりと説明してくれて、凄く丁寧な歯医者だなぁと感動していた。そしてその中には目からうろこの話がたくさんあった。

 虫歯にならないためには三つのことを心に留めればいい。
・食事の間隔を空けましょう
・歯磨き粉やマウスウォッシュはフッ素入りの物を使いましょう
・歯磨きをしましょう

 私的にまさかのことだが、聞くに上から順に大事で、歯磨きはさして重要ではないと言うではないか。なんでも歯科医療後進国は揃って歯磨きに力を入れようと教えているようで、本質はまったくそこではないと言う。

「残念ながら水無さんは多分、本来虫歯を防ぐ役割を持つ唾液の量が少ないか、質が悪いのだと思います。なので虫歯が出来やすいんです。こればっかりはどうしようもありません。なので最初の二つを気にして生活してください」
 これまで数多の歯医者に通ってきたが、動画を見ながらきちんと説明されたのは初めてだったので、私はえらく感動した。だが家に帰って診療費の内訳を見るとしっかり講習代も入っていたので気持ちが若干離れかけたが、いや待てよと私は思い直した。そりゃそうだ、彼もボランティアじゃないのだ。知識を金に変えて何が悪い。私は自問自答で一度手放した彼の信頼を再び勝手に取り戻した。

 具体的に言うと、歯磨き粉はフッ素濃度の値であるPPM1,450の物を、マウスウォッシュはPPM450に近い物を使用してくれとのことだったので、私は歯磨き粉はPPMが1,450あるライオンのNONIOプラス知覚過敏ケアハミガキを、マウスウォッシュはPPMが225あるライオンのクリニカフッ素メディカルコートを買った。PPM450のマウスウォッシュは市販されておらず、歯医者でなら買えたのだが割高だったので、225でも全然良いと聞いて私はこの二つを選んだ。

 その日から私はなるべく間食をしないよう一回の量を増やし、歯磨きも歯間ブラシで汚れをかき出してからフッ素コーティング歯磨きを行なった。厄介なのは歯磨き後のうがいである。私はミントや歯磨き粉の味が大嫌いで今までしっかりうがいをしていたのだが、それだとフッ素が流れて全然意味がないと言われたのだ。なので歯磨き後はなるべく水でグチュグチュせずに舌や指で口内に付いた歯磨き粉を「ペッ! ペッ!」と洗面台に吐き出すという異様な行動を取っていたのだが、私はそこで疑問に思った。
「マウスウォッシュはいつすればいいのだ?」
 高濃度のフッ素歯磨き粉を使った後のうがいがダメなら、低濃度のマウスウォッシュもダメなのではないか?
 私はその疑問を次回来院時にぶつけてみたのだが、先生は「じつはそれ正解がないんですよね。どっちでもいいと思います」とイマイチしっくりこない回答しか貰えなかったので、私はライオンのカスタマーサポートに質問してみた。
 すると返ってきた答えはこうだった。

・歯医者の言うように、順番の指定はしていない
・フッ素が歯のエナメル質に作用するには塗布後二、三十分かかる。その後もフッ素はなるべく歯に留まらせた方が良い
・製品単体で見ると歯磨き粉の方が高濃度ではあるが、一回使用量あたりのフッ素量で言うとマウスウォッシュの方が多い
・マウスウォッシュは医薬品のため一日一回しか使えないので、夜の歯磨きから三十分以上置いた就寝前に使うのも良いのでは

 と、かなり質問したにもかかわらずめちゃくちゃ丁寧な回答が返ってきた。

 そこで私は毎食後はPPM1,450の歯磨き粉を使い、その後はなるべく水分すら口にしないようにし、就寝前にマウスウォッシュを使うという生活リズムを築いた。
 これでもう私の口内は安泰だ。なんと言ってもこれまでやってこなかったフッ素コーティングが施されているのだ。虫歯菌が固着するはずがない。
 こうして私はその後数十年、虫歯に悩まされることなく生涯を終えた――と言いたいところだが、本当に効くのかどうかは分からない。万が一これでもまだ虫歯になるようならまた原因を突き詰めて報告するが、ほとんどの人はこれでかなり予防できるらしい。ぜひ一緒に虫歯ゼロのフッ素ライフをエンジョイしようではないか。