地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

天皇陛下即位パレードの失敗【地獄のイラストエッセイ】

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 二〇一九年の十月二十二日は令和天皇の即位パレード“祝賀御列の儀”が執り行われる予定で、東京に住んでいながらまだ一度も天皇家のお姿を拝したことがない私と妻は非常に楽しみにしていた。

  だが台風の影響でパレードはその翌月の十一月十日に延期となり、妻は絶望した。十一月九日は娘の出産予定日で、そんな時に人だかりのパレードなど絶対に行けないことが確定したのだ。
 妻は非常に残念がっており、私もひょっとしたら行ってはいけないんじゃないかと恐れていたのだが、妻は「もしその日に産まれるとかでなければあなたは見に行って、写真を撮ってきてほしい」と言ってくれた。じつによく出来た妻だ。私は今でも感謝している。

 十一月に入り、娘は予定日通り九日の昼に産まれた。パレードの前日である。私は出産に立ち会い、夜になると「明日はパレードを見てから来るよ」と伝えて家へ戻った。

 さて当日、入場規制があるので早めに行った方がいいとの情報をキャッチしていた私は三時間ほど前に現地入りしたのだが、すでに街は見たことのないレベルで混雑していた。事前に調べていた赤坂御所前の青山通りに来たのだが、観覧エリアへの入場を待つ列が意味が分からないほど伸びている。みんないったい何時間前から並んでいるのだろう。
 整理のお巡りさんが言うにはこの周囲には列がたくさんあり、どの列が具体的にどこに案内されるかは分からないし、どこが空いているかも分からないのでどこか決め打ちして並んでくれとのことだった。私は目についた列の最後尾を目指すなか、聞き耳を立てて歩いていた。こういうのは情報戦だ。情報強者こそが結果を出せるのだ。
 そしてその努力は功を奏した。前を歩いていた二人組が電話の相手から「こっちはかなり列が短い。今すぐ来た方がいい」と言われて方向を変えたので、私は彼らの後をストーキングした。
 彼らが合流した列はたしかに持ち物検査場までの距離が先ほどの列より遥かに短かった。私は心の中でガッツポーズをして彼らの後ろに並んだ。まさか私に尾行されていたとは夢にも思っていないだろう。普通の人は人生で尾行されることなどほとんどないのだ。

 パレード開始の二時間前くらいに入場ゲートが開き、警察官による持ち物検査が始まった。だがこの持ち物検査がかなりザルで、カバンのポケットなどをまったくあらためることなく終わった。その後金属探知機やボディチェックがあったものの、金属以外の火薬や木刀みたいな危険物なら容易に持ち込めたので、抑止力程度のチェックだったのかと少し警察にはガッカリした。

 さて無事ゲートを通過するとようやく観覧エリアを目指して進むわけだが、私は事前にストリートビューでどの辺りがいいのか目星をつけていたので、遮蔽物のない広い直線道路脇を目指した。すると持ち物検査場に近い場所はかなり混雑していたが、奥へ進むにつれて人がかなり少なくなってきたではないか。
「よし、もっと奥へ行って最前列を陣取ろう!」そう意気込んで進んだがあいにく最前列は埋まっていたので、私は背の低い人を探して二列目に甘んじることにした。以前映画館に行った時、前の席の男が高座高のアフロでえらい思いをしたので、前列の人は慎重に選ぶ必要がある。

 こうして無事場所を確保した私はパレード開始までの二時間は読書をして過ごそうと、周りと同じように地面に腰を下ろして本を開いたのだが、この日はかなり寒く、加えてクッションを持って来るのを忘れるという致命的なミスを犯したため、私のぺちゃんこのお尻が地面に刺さって内容がまったく頭に入ってこなかった。なんとか腰を浮かしたり足を組み替えたりして一時間を過ごすと、人が増えてきたので立ってくださいというアナウンスが流れた。
 私のお尻はもう限界だったのでやれやれと思ったのだが、私は体力なし男なのでジッと立っているのも辛いことを思い出した。まったくこういうイベントに適していない身体なのだ。

 私はお尻を痛め、足を棒のようにして待機していたのだが、この立っている時に良いことが起きた。後ろの方がギュウギュウに詰まってきたことで前に押され、私はポンっと最前列に躍り出ることが出来たのだ。しめた、最前列と二列目とでは見え方がまったく違う。カメラのシャッターを切っても前の人の手が映りこむ心配がなくなったのだ。それに会場入りする際に「これを振ってくれ」と日の丸国旗の旗を渡されたので、旗の映り込みも懸念していたのだ。

 三十分ほど前になると道路を慌ただしく関係者の車が通り、手を振る練習などが始まった。私も手を振りたかったが、入院中の妻に見せるために写真はズームレンズを付けたミラーレスカメラ、動画はスマホの二刀流で勝負に挑まなくてはならないため、手を振る練習中はカメラリハに集中した。

 パレード開始の時間になり、周囲の人がスマホで生中継を見始めた。御列がこの辺りに到着するのも時間の問題だ。ほどなくして右手の方が急に騒がしくなる。ついに天皇陛下を乗せた御車がやって来たのだ。私は緊張してカメラを左右の手で構える。
 歓声が高まり、黒塗りの御車が見えた。私は右手でカメラを連射し、左手でスマホの動画を撮った。そして天皇陛下を乗せた御車が目の前を通り過ぎた時、私はとんでもないことに気が付いた。
「しまった! 生で見てない!」
 私は必至にカメラの液晶ばかりを見ていて、生でお姿を拝していなかったのだ。慌ててカメラを下ろして目を向けると、天皇陛下雅子様の後頭部が見えた。私はお顔でなく後頭部しか見られなかったことに絶望しかけたが「後頭部だって立派な天皇陛下だ」と思うようにし、列を抜けて人のいない場所で二刀流の出来栄えを確認した。
 するとどうだろう。御車の想像以上のスピードについていけていないスマホの動画はあらぬ方向を向いており、写真もまともに写っているのは二枚だけという悲惨な結果に終わった。加えて私は自分の目で二人のお顔を見ていない。三兎を得ようとして結局どれもイマイチな結果に終わったのだ。一眼レフ片手にロケに行くこともある映像制作者としてじつに恥ずかしい。

 この日以来、私は欲張らないようになった。キャパオーバーなことをしても結局失敗するのだ。
『身の丈に合ったことをしなさい』
 天皇陛下がそう教えてくださったのかもしれない。

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