メルカリで売れたありえない物【水無のイラストエッセイ】
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私はおそらくフリマアプリのメルカリでかれこれ三十万円は物を売っている。最初のうちは『もう絶対に着ない服を見つけたら出品する』という程度でしか使っていなかったのだが、これが意外とお金になることが分かり、そのスタンスは徐々に『不用品を探し回っては出品する』というものへとシフトしていった。
だが不用品の出品という稼ぎ方には限界がある。売る物が無くなるのだ。小銭欲しさに必要な物を売るようになってしまっては本末転倒なので、私はやがて売るに値しないゴミを出品してみてはどうかと思うに至った。
私は元来かなりのコレクター気質があるので、昔使っていた財布やキーケースはご丁寧に全て取ってあった。だが改めて見るとレザーはズタボロ、手垢や金属の擦れで真っ黒になっているものばかりで「これは商品じゃなくゴミだな……」と諦めかけたのだが、ものは試しとゴミのようなヴィヴィアンのキーケースをレザークリーナーで拭いてから出品してみた。相場は二千五百円とのことだったが、非常に汚かったので二千二百円で出品。もちろん状態はよろしくない旨を記載し、写真も黒ずんだところを掲載した。
「こんなの出品しているところを見られたらアカウントの価値まで下がりそうだ」と不安に思っていたのだが、あれよあれよという間にいいねが付き、二日後に売れた。
私はメルカリ仲間の姉に報告したところ「え！ そんな状態悪いやつでも売れるん？ 私もゴミ漁りしてみるわ！」とゴミ販売者になることを宣言した。
こんな物でも売れるのなら何だって売れるのではないかと思い、私のゴミ漁り生活が始まった。
私はいつもスマホケースは既製品ではなくフォトショップでデザインを起こして業者に発注しており、去年まで使っていた“ジャイアンの妄言iPhone8ケース”を出品した。これは二次創作物も制作してくれるサイトで作った『むしゃくしゃしてたとこだ一発殴らせろ』との台詞を吐くジャイアンがブチギレているものを一から描いたものなのだが、使用には問題ないが三カ所にヒビが入っていたので七百三十円で出品したところ、四日ほどで売れた。千九百円で作ったので、二年使ったことを考えると元は取れたのではないだろうか。
他にもSubcietyというバンドマン御用達のブランド品ではあるが摩耗しまくり穴あきまくりのゴミみたいなズタボロズボンが千四百円で売れたり、一九六〇年代米軍放出品の腰のところからナイロンのチクチクが出まくって腰を動かす度に刺さって痛い軍パンが三千二百円で売れたりと、どうしようもないと思っていたものが次々売れ、私は完全に調子に乗っていた。
ゴミゴミと連呼すると買ってくれた方に申し訳ないのだが、買ってくれたと言うことはこれまで出していたものは古着好きにとっては価値のあるものだったのかもしれない。だがここからは私も本気だ、いいだろう。これまでのものとは比較にならないレベルのゴミを出品してやろうと、私はさらに家捜しを続けた。すると出るわ出るわ宝のゴミが。
ネチャネチャの卓球ラケット千四百円、四年間使い倒した掛け布団カバー千二百円、ジェットマウスウォッシャー千百円。
信じられないと思うが、これらが全て売れたのだ。卓球ラケットは張り替えれば使えるかもしれないが、中古の掛け布団カバーと、ましてやジェットマウスウォッシャーが売れるだなんて誰が思っただろう？ これは本体に水を入れてノズルを口の中に突っ込むと強い勢いで食べカスを洗浄してくれるマシーンで、口の中を洗浄した水が溢れて本体をビチョビチョにする商品なのだ。一応新品の替えノズルが付いていたとはいえ、私なら顔も知らない男が口の中に突っ込んでいた機械など死んでも触りたくない。だが、買ってくれた彼には需要があったのだ。そういうことを一切気にしない人なのだろうか。
私はべつに女のフリをしているわけでも内容を詐称しているわけでもない。三百件近くある評価だって星五だ。なんなら二十四時間以内に発送している優良出品者のバッジだってついている。
どうしてこんな物が売れるのか。私は自分で出品しておきながら不思議でならない。だが需要があるのなら供給したい。私は不用品を減らせるし、相手は欲しいものを安く買える。リユースは発売元にダメージを与えるが、 庶民の生活を支えてくれているのだ。また面白い不用品情報があれば書きたいと思う。
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