地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

事故現場でたこ焼きを食べる【地獄のイラストエッセイ】

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 おかんの実家が奈良で、小さい頃はよく遊びに行っていた。
 そこは超ド級の田舎で、隣の家までは徒歩五分、最寄り駅まではなんと驚異の一時間半かかる。地面を掘ったら弥生時代だか奈良文明だかの土器が出土して国に奉納したり、敷地内に大化の改新を行なった藤原鎌足のものらしき『藤原家の墓』があるなど、奈良の歴史の深さを節々に感じられる築三百年の古民家だ。

  そんなド田舎なので、車は一家に一台どころか一人一台あるのが当たり前だ。古い町だからと言って「おらは文明の利器なんかにゃ頼んねぇ! 人力最高! 自転車で十分!」などと言っていてはおそらく生きていけないだろう。車が無くては生活出来ないのだ。なので私達も毎回車で帰省していた。

 我が家の運転事情は、おかんは安全運転で信用出来るのだが、とっつぁんの運転がまあよろしくない。急停車急発進で同乗する全ての人間を酔わせる。なのでいつもは全員のリクエストによりおかんが運転するのだが、私がまだ小学校低学年だったあの冬の日は何の事情か分からないがとっつぁんの運転で奈良からの帰路に就いていた。

 運転席にとっつぁん、助手席におかん。姉その一と私が二列目で、姉その二は三列目で横になって眠っていた。早めの夕食を奈良で済ませての帰りだったので、時刻は十九時を回っていただろうか。大通りで渋滞に巻き込まれていた我々は、みな思い思いの方法で暇を潰していた。先述したように姉その二は後部座席を独り占めして眠っており、姉その一はボーっとし、私は膝立ちで後ろを向き、おもちゃでカチャカチャと遊んでいた。カーステレオからはとっつぁんの愛する中島みゆきの悪女だか横恋慕だかが流れており、おかんは特に何も言わずに夫の運転を無意識に眺めていた。

 そんな何気ない日常が車内で繰り広げられていた時、突如大きな衝撃が一家を襲った。『ガシャーン!』という大きな音を立てて、車が前に押し出されたのだ。後ろで寝ていた姉は座席から転がり落ち、私の隣に座っていた姉は運転席の背中に突っ込んで「グベッ」と変な声を出した。エアバッグなどという高級品は装備していない古いタウンエースだったが、前に座る両親はシートベルトのおかげでガラスに突っ込むと言ったような大惨事には至らなかった。
 私はと言うと後ろを向いていたのが功を奏したのか、衝撃の瞬間におもちゃを手放し、ヘッドレストに瞬時に掴まったことで軽い体を前に吹き飛ばされずに済んだ。まるでヤシの木にしがみつくサルである。

 我々はおかんの指示のもと慎重に車外へと避難し、あたりを見渡してみた。するとそこには見たこともないような凄惨な風景が広がっていた。
 それは何台も巻き込んだ玉突き事故で、我々の車は二、三番目だったため車がペチャンコになるような被害はなかった。
 両親はすぐに我々子ども達の無事を確認したが、特に誰も怪我をしていなかったことに安心した様子だった。
 車は走行不可能で、警察の現場検証が終わるのを待つ必要があったのだが、奈良の冬はとても寒い。全てが終わるまで外で待っていたら凍えてしまうと思い、辺りを見回すとすぐ近くに小さなたこ焼き屋があった。幸い、事故による重症者は特にいなかったようで、能天気な我々家族は事故からまだ数分と経っていないのに早くもそのたこ焼き屋で暖を取ることを決定した。他の被害者達はすぐ近くにあるこのたこ焼き屋などまるで目に入らないかのように事故のショックを話し合っていたが、我々は呑気にソースマヨやネギポンのたこ焼きを人数分注文していた。
 店主は戸惑いながら「事故に遭われた方ですよね? たこ焼きなんか食べてていいんですか……?」と当然の疑問を口にした。ショックで泣いている人もいるなか、事故直後に一家全員分のたこ焼きを求める家族など他にはいなかったのだ。彼が戸惑うのは当然である。
 特に私は車がペチャンコになったことに対するショックもほとんどなく、早くたこ焼きが焼き上がることの方が重要だった。

 そうして我が家は下りた保険金でまた同じようなタウンエースを買ったのだが、おかんだけが首がむち打ちになってしまい、その後しばらく辛そうにしていた。それ以降私は後部座席に乗る場合もきちんとシートベルトをするようになった。

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