地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

神を目指すイカれた友人【地獄のイラストエッセイ】

f:id:Essay_Miznashi:20201123175424j:plain

読み終わった後はぜひブックマークボタンを押して応援お願いします(‘∀‘)

 私が二十一歳の頃、泉南イオンでウインドウショッピングをしているとヤンキーの店員さんがいろいろと教えてくれた。その後ブラブラと時間を潰して地元の駅前にあるローソンに入ると、さっきのヤンキーのお兄さんと出会った。

 「あれ? さっきの!」
 お互い驚いてそう言い、話を聞くと彼とは小中学校が同じで私の二つ上だった。しかも私が中学に入ってすぐの頃に「お前中学でもヤンキーやんのか? お?」と言ってきた、地元で恐れられているスーパーヤンキーの友達とのことで、彼もやはり見た目通りヤンキーだった。

 だが話をしているうちに彼のケータイの待ち受け画像を見た私は「あ! 韻踏合組合(いんふみあいくみあい)!」と思わず言ったことで音楽の趣味が似ていることが分かり、我々はすっかり意気投合してしまった。私もその大阪で活躍するヒップホップグループが大好きだったのだ。

 それからは彼の方から電話を掛けてくることがちょくちょくあり、音楽だけでなくシルバーアクセサリーの趣味まで似ていることが分かった。
 遊んでいる時に私はまたも彼が付けていたペンダントを見て「それブラッディマリーじゃない?」と聞くと「まじかよブラッディまで知ってんの? やべえな自分!」と彼は大喜びで私を自宅へ招き、コレクションを見せてくれた。私はのちに結婚指輪をブラッディマリーに選ぶほどこのブランドが大好きだったのだ。

 彼とは気が合ったのだが相当変な人で、しきりに「俺は神になる」と、今考えると大量殺人でも目論んでいたんじゃないだろうか不安になるような発言をしており、強いカリスマ性を持ってはいたが同時にクレイジーなオーラも纏っていた。

 そんなある日の夜、私が家でゲームをしていると彼から電話がかかってきた。私はセーブが出来ていないので出るべきか迷ったが、とりあえず出てまた明日話をしようと伝えようとした。だがそんな私の願いは十秒で崩れ去った。

「おお出た! 救世主! 水無くんいま家? ならほんまごめんやけど今すぐ鳥取ノ荘の駅まで車で来てほしい! あとズボンも一本持ってきてほしい! なるべく目立てへんやつ! ほんまごめんやけどもう水無くんしか頼める人おらんねん! すまん! 頼むな!」ガチャコン! プーップーップーッ……

『ああ、人はこうやって面倒事に巻き込まれていくんやなあ……』とあまりいい予感のしない前途を悲観しながらも、行くしかないのでとりあえず車のキーを取って玄関で手軽な靴を履こうとしたのだが「いや、有事に備えて……」といちばん動きやすいスニーカーを選んで車を駅へと走らせた。

 すると出くわす出くわすたくさんのお巡りさん。国道で信号待ちをしている時に窓を開けて「何があったんですか?」と聞くと「この辺りで壁に落書きをしていた若者がいると通報を受けたので捜索中です。怪しい人物を見かけたら教えてください」と言われ、私は全てを察した。奴だ。
『見かけたらも何も私はその男の逃亡に今から手を貸しに行くんですよ』と思ったが、そんな事を言うわけにもいかず、私は適当に返事をして青になった信号を進んで待ち合わせ場所へと向かった。
 駅の南側に着いた私がメールを入れると、草むらから一人の男が飛び出してきた。私は一瞬葉っぱ人間かと驚いたが、よく知る男が顔面を真っ青にして後部座席に飛び乗ってきただけだった。

 彼がハァハァと息を切らせながら後ろの席で身を伏せたので、私は何も言わずに車を走らせ、適当に遠回りして彼の家へ向かった。住宅地に入ると彼は起き上がり、何度も礼を言って私の持ってきたズボンに履き替えた。正確には履き替えたのではなく履いた。彼は逃走のためになぜかズボンを脱ぎ捨てていたのだ。

 話を聞くに、友人と三人で打ち捨てられた廃墟の壁にグラフィティと呼ばれるスプレーアートを描いていたところを通報され、蜘蛛の子を散らすように散会して私が来るのを待っていたとのことだった。人を刺したとかいう話だったら通報しようと思っていたのだが、グラフィティも今はもう誰も管理していない廃墟を調べて描いていたとのことだったので、私は特に気にせず、話のネタにしようと思っただけでこの件は終了した。ちなみに壁には“神の紋章”を描いていたとのことで、やはり彼はどこか頭がイカれていた。

 その後も何度か連絡を取っていたのだが、急に彼は「やはり俺はあらゆる神にならないといけない。手始めにアメリカに尊敬するシルバーアクセサリーの職人がいるから、弟子入りしてまずはシルバー界の神になる」と言い、その後連絡は来なくなった。

 彼が今アメリカで神の修行をしているのか、泉南イオンで働いているのか、はてまたどこかの刑務所か精神病院に収監されているのかは分からないが、私は彼が結構好きだったので変なことになっていないことを祈る。

ブックマークしてくださるとめちゃくちゃ嬉しいです。
毎日19時に面白おかしいエッセイを投稿中!Twitterで投稿を告知していますので、フォローいただければ相互させていただきます。 足をお運びくださりありがとうございました。