地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

盗品を売る私のマネージャー【水無のイラストエッセイ】

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 私がボーカルを務めるバンド“ザ・ミリタリーズ”はカナダに住んでいる時に結成した。
 語学学校で知り合った日本人二名と組み、ジャケット写真やアーティスト写真の撮影に全ての力を注ぐという変なバンドなのだが、我々三人の写真を撮るにはカメラマンが必要だということになり、マネージャー兼カメラマンとして同じ語学学校の日本人である“チャリンコおじさん”を招き入れた。

  彼がなぜそんな名前で呼ばれているかというと、おじさんとは言うものの歳は私より一つ下なのだがいかんせん髭のせいで年上に見え、さらに我々留学生はみんなメトロの乗り放題定期券を毎月買っていたのだが、彼は「勿体ない。チャリンコを買えばもっと安い」と言い、どこに行くのも一人だけチャリンコで移動してあとから合流するという若干付き合うのが面倒なスタンスを貫いていたのでそう呼ばれるようになったのだ。

 とても良い男で我々は愛を持ってバカにしていたのだが、チャリンコのくだりからも分かるとおり、この男じつにケチなのだ。私だってかなりのケチなのだが、彼は私を遥かに凌駕するほどケチなのだ。そしてかれは並の日本人とはかけ離れた感性を持っていた。

 いくつかある逸話の中から今回は二つ紹介したいと思うのだが、まず最初に我々がドン引きしたのは、我々が初めて彼の家に遊びに行った日に起きた“マンゴー事件”だった。
 前日に雨が降り、道路の整備が完ぺきではないカナダ・トロントの地面はいくらかぬかるんでいた。
 彼がバス停まで迎えに来てくれて、我々バンドメンバーや他の友人五人ほどで彼の家を目指している時、彼は急にツカツカと道の反対側に向かって歩き出した。何事かと思って見ていると、彼は満面の笑みで「アハハ、マンゴー拾っちゃったよ~!」と言いながらぬかるんだ地面からマンゴーを拾い上げるではないか。我々は『だからどうした』と言わんばかりに彼の奇行を理解出来ずに見守っていると、彼はマンゴーについた泥を手で払い、再び家へと歩き出した。
 我々は「まさかあれを食うつもりじゃ……」と顔を見合わせ、恐る恐る私が代表して訊ねた。
「なあ、それどうするん?」
 すると彼は不思議そうな顔でこう返した。
「ん? 食べるに決まってるじゃ~ん」

 ガガーン。衝撃である。同じ日本人とは思えない。道端に落ちている泥まみれのマンゴーを食べると言うのかこの男は……!

 その後彼の家でカタンというボードゲームをしている時、彼は我々に「そろそろマンゴー食う~? もう冷えてると思うんだ~」と言ったが、我々は口を揃えて「ノー」と言った。
 あのマンゴーはおそらく我々が帰った後、彼の胃袋に収まったのだろう。

 そしてもう一つが“二ドルでいいよ事件”だ。

 同じくまた彼の家に遊びに行った日にそれは起こった。我々はいつも誰かの家に遊びに行くと、お金を出し合って安くて美味しい夕食を作って一緒に食べていたので「そろそろスーパーに買い物に行こう」と夕方になった頃に誰かが言うと、彼は「今日はねぇうちに食材があるから行かなくていいよ~」と言った。
 聞くに、彼はどうやらアルバイト先のラーメン屋から中華麺とネギ、チャーシューなどをしこたまパクってきたらしく、それでラーメンを作ろうということだった。
 正義感などない我々は「やったー食費が浮くぞー」などと大喜びして彼に感謝を述べると、盗品でラーメンをこしらえ、腹を満たした。

 とそこまではよかったのだが(よくはないが)、その後に彼が放った一言が衝撃だった。
 食器を洗い、一息ついてそろそろ帰ろうかしらと身支度をしている時、ふいに「二ドルでいいよ」と彼は言った。
 我々は何のことか分からず「ぬ? 何が?」と聞き返すと、彼は笑いながら言った。
「ヤだな~今日のラーメン代だよ~。二ドルでいいよ~」

 絶句、青天の霹靂とはこのことである。我々は凍り付き「あ、ああ、そうやったねごめんごめん……」と言って財布を探すふりをしながら今何が起きているのかを整理した。
 彼のシェアハウスは光熱費はかからないし、ラーメンに使った調味料も大家さんが買ってくるので彼の財布からは出ていないはずだ。だったらなぜ二ドル取るんだ……?

 我々は怖くなり、一人二ドル払って家を出た。そしてバス停までの道中、あの二ドルは何だったのかを話し合った。
 おそらく我々が食べなければその分明日以降の彼の食費が浮いたので、その分を補填するために徴収が行なわれたのだろうという答えに落ち着いた。
 たしかに、我々は食わせてもらった立場なので文句を言う筋合いはどこにもない。だがもし自分がパクってきた食材で人に食わせた場合「二ドルでいいよ」と言うだろうか。

 彼は店の食材を盗み、それを元手にして商売を行なった。この事は我々のツボにかなりハマり、“ザ・ミリタリーズ”のファーストミニアルバムの隠しトラックとして“二ドルでいいよ”という曲が入り、セカンドのアルバムの隠しトラックとして“マンゴー拾ったよ”が入った。

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