地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ミリタリーおじさんの謎【水無のイラストエッセイ】

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 私がCOACHという高級ハンドバッグの店で働いていた時、ミリタリーおじさんに出会った。
 売り上げが凄まじいアウトレットだったので店にはいつも大量の商品が納品されてきた。在庫管理担当の私はいつもバッグやら小物やらにめちゃくちゃ丁寧に取り付けられた緩衝材やらビニールを恐ろしい速度で取り外し、納品処理をしていた。

  多い時には満タンの段ボールが四十箱は届いたりしていたので、とてもじゃないが内製では捌ききれない。なので派遣会社から人を呼んで手伝ってもらうこともしばしばあったため、私のあの店で様々な人と出会った。その中でも特に印象的だったのが、ミリタリーおじさんだ。
 手を動かしながらなら多少話していてもよかったので、私は派遣の人達と仲良くなろうといつも話し掛けていたのだが、秋口にやって来た四十五歳くらいのミリタリーおじさんはなかなかどうして過去に例がないほど無口で、悪い人ではないのだろうが、なかなか人柄を掴むことが出来ずにいた。寡黙な人にやたらと話しかけてもストレスを与えてしまうので気を配っていたのだが、彼が来始めてひと月が経った頃、ふいに質問を受けた。

「水無さんって趣味はありますか?」
 趣味とはまたこの人にしては意外と踏み込んだ話題だなと思い、私はバイクやゲーム、音楽やインテリアが好きであることを伝えた。すると彼は私の返事にある程度のリアクションをすると、自分の話へと移った。
「じつは僕、サバゲが好きなんですよね」
 彼は小柄でかなりおとなしそうな見た目をしていたので、それはじつに意外な趣味だった。
 私は意外性というものが大好物なので、興味津々で色々と質問をした。
サバゲって屋内と屋外どっちが楽しいんですか?」
「僕は屋外派ですね。スナイパーライフルで敵を一撃で狙撃できた時なんかはゾクゾクしますね……!」
 本来であれば一カ月目の派遣先で言うような話ではないが、私はどんどん質問をした。
サバゲって男の人ばかりなんですか?」
「いえいえ、最近は若い女性も増えてきていますよ。先日は大学生の女性四人組が初めて来ていたので、同じチームになって私が教えてあげたんですよ。もの凄く盛り上がりましたね~」
「フラッと行っても大丈夫なんですか?」
「貸切りイベントをしていることもあるので事前にホームページを見た方がいいですね。誰でも参加できる定例会がいいと思います。サバゲってじつは初めての方もすごく多いので、分からないことがあっても周りが助けてくれますよ! かくいう私も最初は――」

 好きな話になると饒舌になる典型的なオタクおじさんだったが、半分ほどの年齢の私はそんな彼がどこか可愛いなと思い、うんうんと話を聞いていた。私は話す方が好きだが、意外と聞き上手なのだ。
 周りにいた同僚にも私は適宜話を振ったが、イマイチ興味を持ってくれなかったので、この件に関しては自分一人で完結することにした。そうやって話を聞いていると、気分が高鳴った彼は愉快なことを言い出した。
「明日、私の装備を写真でお見せしますよ! 水無さんなら気に入ってもらえると思います!」
 私はべつに彼の装備を見たいとは思わなかったのだが、あまりに嬉しそうに話すので本心からニッコリして、楽しみにしている旨を伝えた。

 翌日、私より一時間遅いシフトで出勤した彼は私の姿を見るなり「例のブツ、後でお見せしますからね……!」と、クスリの密売人かのような言い方で写真の存在をほのめかした。
 とは言え見せてもらうタイミングがないなと思った私は自分の昼休憩の時間を彼と同じになるよう勝手にズラし、その旨を伝えた。すると彼はとても嬉しそうに「じゃあその時に……!」と、まるで自分の秘密を打ち明けるかのようなささやき声でそう言った。だが、それはあながち間違いではなかった。

 昼休みになり、アウトレットの従業員専用エリアで一緒に食事をしていると、正面に座る彼が周りをきょろきょろと見渡して知り合いが誰もいないことを確認すると、また例の小鳥さんボイスで本題に入る。
「これです。昨日撮影しました……!」
 そう言って差し出された携帯電話を見て私は驚いた。畳に新聞紙を敷き、その上にブーツから帽子まで完全武装した彼がキメ顔でポーズを取っているではないか。私は床だかベッドの上に軍服や武器を並べた写真が来るものだと勝手に思い込んでいたため、このギャップにはいささか驚かされた。
「どうですか、水無さん……!」
 めったに人の趣味で引いたりしない私だが、この時は珍しく若干引いてしまい、それを悟られないよう無理に褒めちぎった。すると彼は大喜びして次なる写真を見せ、とんでもないことを暴露した。
 二枚目は新聞紙の上に立って銃を構えていたのだが、私はふと『この写真はどうやって撮ったのだろう』と疑問に思った。すると彼は私の思考を読み取ったかよのように「お母さんが撮ってくれたんですよ!」と言い出した。
 彼は私に写真を見せるため、昨日帰宅後にわざわざ和室に新聞紙を並べると全身着替えて銃を構え、おそらく七十歳近いお母さんに画角を指定して写真を撮らせたのだ。

 私はかなり面白い人だと心の中でげらげら笑いながらも、心の底からドン引きした。

 男は、特に大阪人はだいたいマザコンであり、私もおかんのことは大好きだが、彼の行動はさすがにおかしい。
 その後も一つ一つ装備について彼は熱く語ったが、もう私の心には何も響かなかった。他の人には内緒ですよと釘を刺されたが、誰かに話す気は起きなかった。だいたい彼は私以外の誰ともコミュニケーションを取ろうとせず、職場で浮いてしまっていたのだ。

 それから二週間ほどで彼の契約が切れてしまったので、その後どうなったのかは分からない。だが私が今活動しているバンドが『ザ・ミリタリーズ』なので、ひょっとするとどこかの戦場で彼に会う日が来るかもしれない。

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