地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

焼肉小倉優子は大阪人以外対処不能【地獄のイラストエッセイスト】

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 突然だが私は高校生の頃、小倉優子さんがめちゃくちゃ好きだった。アイドルや芸能人にほぼほぼ興味を示さなかった私にしては珍しく、けっこうな具合に好きだった。
 写真集は近所の個人経営の本屋で取り寄せてもらったし、おかんのラジオを密かに回して彼女の冠番組“ウキウキりんこだプー”を聞いたこともあった。

  そんな小倉優子さんの焼肉屋があると聞いたのは、私が二十三歳の時だった。正確に言うとたむけんのように彼女が経営しているわけではなく、彼女が全力で広告塔になっているだけの店なのだが、そんなことはどうだっていい。店内は小倉優子一色だと言うではないか。
 地元の友人三人を引き連れて行ってみると、なかなかどうして、想像以上の小倉優子一色カラーだった。外装には巨大な小倉優子、内装にはいたる所に小倉優子、料理名にはだいたい語尾に“りんこ”が付いていた。凄いな凄いなと友人達と盛り上がり、ご丁寧にオーダー時は料理名を正確に読み上げて大笑いしていた。完全に酔っ払いのオッサンである。

 だがこの焼肉小倉優子の特異性は、店内が小倉優子一色というだけではなかった。むしろそれはただの外郭にすぎず、本質は接客にあった。

 友人が灰皿をくださいと店のお姉さんに頼んだら、奥から二十個ほど積み重ねた灰皿をトレイに乗せてヨロヨロと運搬してきたではないか。我々が「なんであんなに持ってんの?」「さあ……」と不思議に思って見つめていると、なんと彼女は我々のテーブルの直前でつまずいてしまい、灰皿の乗っていたトレイがこちらに向けられたではないか。
『これはどえらい音が店内に響き渡る!』我々は咄嗟に手を伸ばしたが、一秒、二秒と経っても灰皿は我々の頭の上に降ってこないではないか。
「ぬ?」
 不思議に思ってよく見ると、なんとお姉さんの持っていた灰皿は全て固定されており、彼女はニッコリとしながらエプロンのポケットから灰皿を一つ取り出すと「お待たせりんこ☆」と言って下がっていった。

『いったい何が起きたのだ?』

 我々は中腰で手を差し出したまま呆然と固まっていた。

 その後も肉を焼くトングが無かったので先ほどとは違う女性の従業員に持って来てもらうよう頼むと、奥から申し訳なさそうな顔をしながらやって来て「すみません、今在庫を切らしていて、近いものだと私の私物のこれしかないのですがダメでしょうか……」と、使い古された毛抜きを渡そうとしてきて、我々は気が付いた。

『ここはそういう店なのか!』

 気付いたからにはもう戸惑わない。我々は幼い頃からお笑いソルジャーとして教育を受けてきた歴戦の戦士、大阪人なのだ。毛抜きのくだりはボケずにそのまま受け取ると塩タンを掴もうとして逆に店のお姉さんにツッコませ、次はどんなネタが来るのかと大盛り上がりだった。我々は戸惑うのではなく、この店のコンセプトに沿って楽しむことに決めたのだ。

 スプーンを頼んだら小学生の身の丈ほどある巨大しゃもじを持って来たり、水のお代わりを頼むとストローが十本連結された物が出てきたりして、我々は肉を焼かずに笑ってばかりいた。ちなみにこの十本連結ストローが逸品で、ただ繋げているだけなのに見事なまでに隙間がなく、身長百八十七センチの巨漢が血管を浮き上がらせた顔を真っ赤にしながら腕を必死に上下させて本気で吸ってもまったくの一滴も飲めなかったので、周りの席の人達と大笑いしていた。

 他にインパクトがあったのはロシアンたこ焼きだ。一般的なものだと人数分用意されたたこ焼きのうち一つだけが激辛のハズレなのだが、ここでは違う。
「せーの!」という掛け声と共に我々四人が一斉に口に含むと、直後に全員が悶えだしたのだ。四つのたこ焼きにはそれぞれワサビ山盛り、梅干し山盛り、デスソース山盛り、さとう山盛りといったような仕掛けが施されており、まんまと店にしてやられたのだ。我々はムセながら店のお姉さんに全部当たりだった旨を報告すると「あらごめんなさい! 作り方間違えたのかな? でもそういう日があってもきっといいりんこ☆」と言われ、その話はそこで終わった。めちゃくちゃ面白い。

 そうして我々は焼肉小倉優子を満喫し、帰路に就いた。味のことなんてまったく覚えていなかったが、絶対また来ようと我々は誓った。

 だが一つ疑問に思う。調べるとあの店は関東にも店舗があるらしいのだが、大阪以外であのサービスは受け入れられるのだろうか。東京生まれ東京育ちの妻曰く「絶対に無理。大抵の人は引きつった顔で『普通のやつ貰えますか』と言うか怒り出すかのどちらかだと思う」とのことだ。

 そして数か月後、また行こうとなったので予約のためにインターネットで店を探すと、焼肉小倉優子は焼肉清原和博に変わっていた。広告塔が変わってしまったのだ。
 だがそうなるとあの小倉優子的英才教育を受けていた従業員のお姉さん達がどうなったのかが気になるところだ。まさか「カルビお待たせりんこ☆」と言っていた彼女達は今「オラ! カルビだ!」と言う日焼け筋肉感満載の接客に変わってしまったのだろうか。
 行っていないので分からないが、知っている人がいたら教えてほしい。

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