地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

恐怖!家庭菜園のトラウマ【水無のイラストエッセイ】

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 私の両親は共通の趣味というものを持っていなかったのだが、十年ほど前に土地を借りて家庭菜園を始めた。

  近所の地主が「土地をただ持て余しているのももったいないので、使い道が決まるまでは何名かに畑をタダで貸しますよ」と回覧板か何かで書いていたのを目にして、応募したところ運よく抽選に当たったのがきっかけだ。

 家庭菜園と言っても百二十坪となかなかの広さがあり、分かりやすく言うと七レーンある二十五メートルプールくらいの広さだ。
 ノウハウも耕具も何もなかった最初はキュウリ一本作るのにも一苦労と言った様子だったが、三、四年経過したあたりからとっつぁんが急に精を出し始め、あれよあれよという間に畑の本や電動耕具が増えていった。
 そして収穫物も年々凄いことになりだし、白菜だ玉ねぎだ苺だニンニクだと毎日大量に畑から持って帰っては近所の玄関におすそ分けとして置いていくというレベルにまで達していた。

 畑仕事に関して私の義兄その一とやたらと気が合うようで、いつもとっつぁんと本や手書きの資料などを広げては畑について熱く語り合っていた。義兄その一の家(つまり私の姉その一の家でもある)は奈良の超絶ド田舎にあるため、畑を広げたい放題なのだ。
 残念ながら私は“畑仕事とは切っても切れない関係ナンバーワン”である“虫”がこの世全てのものの中で一番怖いので、熱く語らうどころか「ちょっと手伝ってくれ」と言われても絶対に無理だと拒否してきた。もしも「二千円あげるから白菜を一つ土から引き抜いてきてくれ」と言われたとしても断るだろう。
 なのでいつも美味しい野菜を作ってくれる両親や農家の方には本当に感謝している。ちなみに義兄その二は実家に来るといつも美味しんぼの漫画を読んでいる。

 そんな家庭菜園との関わりを断絶している私がなぜトラウマを負ってしまったのか。事件は畑仕事ではなく、食べる時に起こった。

 何かの集まりで親戚が我が家で夕食を食べていくことになり、取れたての野菜と美味しいお肉で鍋をしようという流れになった。おかんは異様に鍋に力を入れており、特にうどんすきと鴨鍋に関しては貧乏な我が家ではありえない値段の材料でダシを取っており、相当高い料亭で出てもおかしくないレベルにまで味の研究がされていた。うどんすきというのは大阪府の郷土料理で、うどんと様々な野菜を煮込むというじつにシンプルなものなのだが、ダシが一口飲んだらちょっとビックリするくらい美味しいのだ。
 そんな家で育った私はもちろん鍋が大好物で、今夜はうどんすきだと聞いた私の心は、羽が生えたロバがトルコの気球を飛び越えるほど舞い上がっていた。

 赤鶏のもも肉とカトキチのうどんをメインに、とっつぁんが畑から引き抜いてきたばかりの白菜やらニンジンがてんこ盛りのうどんすき大会が始まり、親戚はもちろん、食べ慣れた我々も美味しい美味しいと連呼して食べていた。そして終盤、私がさて次はうどんを取りましょうかと箸を伸ばした瞬間、とんでもないものが目に飛び込んできた。

“スープに浮かぶ、ムイムイ(小さな芋虫)”

『ギャーーーーーー!!!!』と叫びかけたのを我慢できた私は大人だ。もし私が中学生なら大騒ぎをしてその場にいる全員が嫌な思いをしていただろう。
 私は震える手足を必死に動かし、おかんにそっと伝えた。すると彼女は何も言わずにおたまを手に取り、秒速でムイムイをすくって流しに捨てた。

 私は気分が悪くなり、今すぐソファに倒れてしまいたかったがそれよりも体内の浄化の方が先だった。なにせ私はムイムイのエキスが出た鍋を食べてしまったのだ。気持ち悪いという言葉だけでは表現力が致命的に足りない。水を死ぬほど飲もうかと思ったが、味の薄いものだと気持ち悪さを払拭できないと思い、冷蔵庫から牛乳パックを取り出すとそのまま一気に飲んだ。半分くらい残っていたが、私は無心で飲んだ。私の体内は綺麗だ。私の体内は綺麗だ。私の体内はどこも汚されてなどいない。

 涙目で食卓を見ると、何も知らない親族達が呑気に鍋をつついていた。自分はもう、あちら側には行けない。気付いてしまった以上、もうこちら側の人間なのだ。
 私はその日、強烈なトラウマを脳裏に刻みこまれた。いくら忘れようとしても、いくら記憶力が悲惨な私であっても、鍋を見るとまるで古いフィルムについたシミのように、あのムイムイが脳裏に焼き付いて離れなかったのだ。

 元はと言えば家庭菜園の野菜を適当にしか洗っていなかったおかんが悪いのだ。あれほど大好きだった鍋を私が一切口にしなくなったことを悲しむおかんを見るのは心が痛んだが、無理なものは無理なのだ。その事件以降、おかんは葉野菜を一枚一枚きちんと洗うようにしてくれたのだが、私は一年ほど鍋を食べることが出来なかった。
 だが拒否反応が時と共に薄れてきた頃、野菜をしっかりと洗うところを見届け、私は鍋のリハビリを始めた。始めのうちは嘔吐くこともあったが、次第におかんが「あんたええ加減にしぃや!」とキレだしたので、黙って鍋を食べるほかなくなった。この家の料理に関しては彼女が圧倒的な最高権威なのだ。

 今では以前のように鍋を楽しむことが出来るのだが、不意にあの時の光景がフラッシュバックすることがある。だが大丈夫だ。今や一家の長である私が料理を作る時はもちろん、妻も一枚一枚丁寧に野菜を洗ってくれている。この鍋にムイムイが入り込む余地など絶対にないのだ。そう言い聞かせて私は今日も鍋を食べる。そこまでして食べたいのかと思われるかもしれないが、私は鍋が大好きなのだ。

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