地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

FAXで居酒屋の予約をする俳優【水無のイラストエッセイ】

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 みなさんはどういう手段で居酒屋の予約をするだろうか。おそらくネットか電話での予約が飛びぬけて多く、直接行くかメールで予約する人も少数ではあるがきっといるだろう。では、ファックスで予約をする人はいったいどれほどいるだろうか。

  あれは私が二十三歳だった二〇一一年、松竹芸能で俳優業をしていた時のことだ。年の暮れに同期のみんなで忘年会をしようということになり、最年長の“リーダー”というあだ名の彼が店を決めて予約まで取ってくれると言い出したので、みんな彼に感謝を述べ、予算の上限額を三千円でお願いした後は任せっきりにしていた。
 だが彼は普段まったく遊びに出かけず、友人もまったくいないと公言しているうえ、真面目一辺倒でかなりの変人だったので、私は一抹の不安を覚えて「リーダー、お店大丈夫? 一緒に探そうか?」と聞いてみたが、彼は「大丈夫! 今お店を三個くらいに絞ってその中でどこがいいか比べてるところやから! こういうのけっこう楽しいかも!」とウキウキだったため、私も気にしないことにして彼に任せることにした。

 そして当日、稽古が終わると全員で彼の言う店へと向かった。
 メンバーは私とリーダー、そして過去のエッセイ“全国CM主演俳優までの軌跡”でもたびたび登場したラキオ、そして女の子三人の計六人で、リーダーはこの中に好きな子がいたので気合が入っていた。

 リーダーが予約してくれていたのは心斎橋にある個室型の居酒屋で、聞いたことがない店だったため私はどんな料理を食べられるのかとワクワクしていた。
「今日は飲み放題付きのコースを頼んでいるのでいっぱい食べて飲んで、有名になれるよう来年も頑張っていきましょう!」
 そんな彼の乾杯の音頭で忘年会は始まり、稽古の難しさや将来の夢、はてまた好きな人はいるのかなどを話し、とても楽しい時間を過ごしていた。

 しかし開始から三十分が経った頃、私は違和感を覚えた。料理の出が遅すぎるのだ。最初に突き出しで運ばれてきた前菜三種盛りの後は料理がまったく運ばれてきていない。
『年末で忙しいから遅れているのかな』と思って少し様子を見ていたが、その後十分ほど待っても出てこなかったので私はみんなに言ってみた。
「料理出てこーへんね。店忙しいんかな? にしても遅いやんね?」
 私がそう言うと、どうやらリーダー以外のみんなもそう思っていたようで、口々に遅いねと言った。リーダーだけは普段まったくこういう場に来たことがないので、何の違和感も持っていなかったようだった。

「リーダー、今日はどんな料理が出てくるん?」
 私はそう訊ねると、彼は「なんだったかな~」と言いながらメニューを見たのだが、イマイチ要領を得ないので私は店の人を呼んで料理がまだ全然来ていない旨を伝え、併せてコースの確認をお願いした。従業員のお姉さんは料理が遅れていることを詫びて確認に行き、そして戻ってくると信じられないことを言った。
「あの、料理はもうすでに全てお出ししているようです」

 我々は少しの間ポカーンとして間抜けな顔でお互いを見合わせると、正気に戻って「いえ、前菜しか出てないですよ。どこか他のテーブルと間違えてませんか?」と言った。すると彼女はまたしても我々を驚かせる一言を放った。
「本日リーダー様のお名前で予約されているコースは千八百円で飲み放題三時間、お通し三種盛りだけの二次会プランですが……」

「えっ……」
 我々は顔が真っ青になった。すかさずリーダーに確認を取ると「そうか、それやったんか!」とよく分からないことを言いつつも一人で納得し、我々との温度差をものすごい勢いで広げていた。

 我々はリーダーとの話し合いを放棄し、店のお姉さんに「予約の取り方を間違えていたようで、今自分達は腹ペコでずっと料理を待っていた。千八百円という安いコースでなくていいし、三時間も長居せず二時間で退店するので、料理を何か出してもらうことは出来ないか」と相談を持ち掛けた。そこでようやく店のお姉さんも我々の混乱を理解してくれたようで、店長に確認し、親切なことに一般的なコースに切り替えてくれた。

 話がひと段落したところで我々は一息つき、リーダーに「なんて言って予約したん?」と聞くと、彼の口をついて出た言葉は本日一番のビックリワードだった。
「家のファックスで予約したんやけどマズかったんかな……?」

『ファックス!』

 我々は予想だにしていなかった言葉の登場で笑い転げた。二十代前半の若者がファックスで居酒屋を予約するだなんて聞いたことがない。
 さらにどういう文面を送ったのか聞くと、彼は携帯電話で写真を撮っているからと見せてくれた。

『こんにちは。リーダーです。十二月十七日の二十時から六人で、一番長く居られて一番安い飲み放題付きのコースをお願いします』

 これには驚きである。再び大笑いのビッグウェーブが我々を襲った。あれだけ調べていると言っていたのに、何も具体的な指定をしていなかったのだ。店側もよくこれで予約を受けたものだ。私ならすぐに折り返し連絡してイタズラかどうか確認する。

 こうして彼は男やリーダーとしての株を著しく下げ、同時に友人としての株を大きく上げた。だが彼はウケたことで気をよくしたのか、この日の帰り道で狙っていた好きな子に「なあ、パンツ見せてや」と言い、死ぬほど嫌われた。

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