地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ネットでバンドを組むとヤクザが来た【水無のイラストエッセイ】

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 バンドを結成するには学生時代に軽音部や趣味の合う友人を見つけるか、知り合いのバンドマン界隈で見つけるか、ライブやスタジオでメンバー募集情報を見るか、ネットで探すかの四つが最たるものではないだろうか。

  私は学生時代に音楽の趣味が合う友人を見つけられなかったので、ネットでメンバーを探すことにした。
 二〇〇〇年代後期にはOURSOUNDSをはじめとしたメンバー募集のサイトも充実し始めており、近くに住む同じ趣味を持ったバンドマンを探すのはさほど難しいことではなかったのだ。

 あれは私が三度目のバンドを組もうと募集サイトを見ていた時のこと。私はボーカルで、“エモ・スクリーモ”という、“バンドサウンドはゴリゴリだがピアノや綺麗な音の楽器が入ったりしてボーカルラインは切なく儚いジャンル”でメンバーを探していた。すると掲示板の中で『スクリーモ(グオオォと叫ぶやつ)とクリーン(普通の声で歌うこと)に自信のあるエモバンド好きボーカル募集!』という書き込みを見つけた。見ると住所も堺市ということで比較的近く、私は「これはいいかもしれない!」と鼻息荒くコンタクトを取り、早速顔合わせを行なうことになった。

 大体において私は集合時間より早めに行動するタイプなのだが、その日は電車が遅延しており、メールで謝罪して五分遅れで待ち合わせ場所の堺駅前に到着したのだが、バンドマンらしき見た目の人物がいない。いるのは年老いたサラリーマンと女子高生二人組、それと――ヤクザだ。白いスーツに金のネックレス、右手にはクラッチバッグ。歳は私と同じか少し上で髪型はオールバック、体格はMAX。誰がどこからどんな角度で見てもヤクザにしか見えないようなヤクザ指数を振り切った男が立っており、私は関わり合いにならないよう少し離れて、到着した旨と着ている服をメールで送った。するとヤクザのケータイが着メロを鳴らし、キョロキョロと辺りを見回すと私の方へと歩き出すではないか。
「えっえっえっ」
 私は四方をゾンビに囲まれたパニック映画の主人公のようにアワアワしながら男の接近を許してしまった。マズい、このままでは噛まれてヤクザになってしまう。やがてヤクザは私の前で立ち止まり、口を開いた。
「水無さんですか? こんばんは。ヤクザA(仮名)です」
 ニカっと笑う表情だけ見れば良い人なのだが、それ以外の要素は全てヤクザ。私は引きつった笑顔でよろしく頼む旨を伝え、さっそく予約を取ってくれているという近くのスタジオへと向かった。
 嫌な予感が頭の中を漂う。最悪のケースとしては事務所に連れ込まれて拉致監禁。マシなケースとしては……。
 そうこう考えているとスタジオに着き、ヤクザAが扉を開けるとそこには二人のヤクザがいた。ヤクザが一人から三人になった。ドラえもんバイバインだってもう少し緩やかなペースで増えるというのに。一応拉致監禁ではなくマシなケースの方ではあったが、何一つ良くはない。

 この音楽のジャンル的にヤンキー率はかなり高めなのだが、ヤクザが出てきたのは初めてだったので、私はどうしたものかと戸惑っていた。するとヤクザAが口を開いた。
「自分ら、まぁ見てもらったら分かるとおりヤクザもんなんですけど、音楽もやりたいんですよね。水無さん、自分らこんなんですけど大丈夫ですかね?」
 その見た目と激しいギャップのある控えめな言葉を聞いて、私は心を動かされた。人を見た目で判断するのはよくない。大切なのは心じゃないか。
「バンド活動に影響がないのなら、仲間に職業なんて関係ないですよ」
 私がそう言うと、彼らは大喜びで私の元へ向かい、握手を求めてきた。私はその素直な喜びようを見て、ヤクザだがいい奴だと確信した。

 それから一時間ほど、我々は共通の好きなバンドの曲で音合わせをした。ヤクザAはギターボーカルでヤクザBはベース、ヤクザCはドラムだった。三人とも技術はしっかりとしていて、私はこの三人とならバンドを組んでもいいかもしれないなと思い始めていた。

 すこし休憩を取ることになり、私はヤクザAに趣味は何なのかと聞いた。ヤクザの趣味というのは少しばかり興味がある。
「いや……えっと……」
 モゴモゴして話そうとしないのでどうしたのかと聞くと、少し照れながら彼は言った。
「アニメがよ、最近組で流行ってて……」
 アニメ! ヤクザがアニメを見るだなんて思いもしなかったが、私だって何を隠そう鬼のようなアニメオタクなのだ。私は興奮気味にそのことを伝えると、三人は表情をパァッと明るくさせて身を乗り出した。
「マジっすか! バンドマンってオタクが多いって言うけど、このジャンルの人は違うと思ってた!」
 我々は大喜びで好きなアニメの話ですっかり盛り上がり、私が「クラナドで死ぬほど泣いた」と言うとまた三人は大騒ぎで「クラナド! 去年組のもんに教えてもらって見たんすよ! 花畑の後の電車のシーンヤバいっすよね! 俺めちゃめちゃ泣いたっすよ!」とまさかの盛り上がりを見せ、ヤクザBは持っていた音楽プレーヤーをスタジオのスピーカーに接続すると、爆音でクラナドの曲『小さなてのひら』を流した。
 曲が流れ、我々は泣いた。そしてこのバンドでやっていこうと固く誓い合った。

 今思い返すと嘘のような話だが、事実しか書いていない。しかし残念ながらこのバンドは長くは続かなかった。ベースのヤクザBが逮捕されたのだ。その事でバンドは解散となり、彼らがその後どうなったのかは分からない。組のことについては何も話してくれなかったのだ。
“二〇一〇年頃に三国ヶ丘に住んでいたヤクザのバンドマン”この情報でもし何か思い当たる節がある方がいたら、連絡をしてきてほしい。ぜひまた友達になりたい。

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