地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ワーホリ体験記七~レベル五のオーロラ爆発~【水無のイラストエッセイ】

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 絶景と言えばオーロラ、カナダと言えばオーロラである。幸運なことに二〇一四年は十一年に一度のオーロラの当たり年と言われており、私はブラッドの過酷な授業を一週間休み、オーロラを見に行くことにした。日本人と台湾人に声を掛け、八人の大所帯となった。

  トロント発の候補地としてはアイスランドやカナダのホワイトホースなどもあったのだが、多少の金額をケチって「観れませんでした」ではシャレにならないので、我々は多少遠いもののオーロラベルト(オーロラを観測しやすいエリア)直下という最高条件のカナダ・イエローナイフを選んだ。三泊四日であればよほど運が悪くない限り見られるとのことだったので、ぜひ極光とも呼ばれる絶景を目に焼き付けようと我々の鼻息はかなり荒かった。

 一番安い旅行会社を選んで予約しようとしたのだが、そこはクレジットカードしか使えない会社で、八人分合わせて百万円近い旅費を切れるカードを持っているのが私だけだったため、代表して支払った。そのおかげでクレジットカードのポイントが一万七千円分ほど付いたのだが、これは異国の地で大金を肩代わりした私の役得である。
 ちなみにこの時私は強烈な金髪だったため、後日全員から旅費を回収する姿が完全に取り立て屋だと噂され、後々ラインスタンプにもなった。
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 いざ出発となり、カルガリーで乗り換えた飛行機が我々だけで定員オーバーになるような小型機で、エンジンがかかるとポンコツポンコツともの凄い音を立てたため、全員が落ちる落ちると言うなか飛び立ち、落ちる落ちると言っていたら到着した。ああいうのは意外と落ちないものである。

 イエローナイフはマイナス三十℃はあろうかという極寒の地で、信じられないかもしれないが旅行の注意書きに『鼻では呼吸しないでください』と書いてあった。我々は大喜びで一斉に鼻呼吸をしてみたところ、鼻毛が一瞬で凍り付いた。なるほど、こういうことか。痛くはないが不愉快極まりない。注意書きにわざわざ書かれていることは、やるべきではないのだ。教えには背かない方がいいと知った我々は、貸し出された南極探検隊と同じ装備のカナダグースというブランドの服を上下着込み、鼻で息を吸わないよう注意した。

 オーロラ観測は深夜のため、それまでの自由時間で我々は犬ぞりを体験することにした。イエローナイフでは犬ぞりの大会も行われるため、犬達はみなプロなのだ。
 五人で一つのそりに乗り、それを十匹近い犬が引っ張るのだが、出発の準備をしている時にその犬の軍団が一斉に荒れ狂い始めたのだ。何事かと周囲を見渡すと、なんと向こうの方から巨大な狼が接近してきて、我々の周りを徘徊しだすではないか。操舵者であるガイドはそりの準備をしていて狼に気付いていない様子だったので「我々の命が危ない。殺されそうだ」と言ったところ「Hahaha」と笑ってまた準備に戻った。この男の危機感の無さにより我々も犬達と同じようにパニックになって大騒ぎし始めたのだが、どうやらその狼と思しき動物は犬達を統率するシベリアンハスキーだったようで、犬達は早く走らせろと興奮していただけだったようだ。

 犬ぞりというのはとても不思議な乗り物だ。もの凄いスピードが出ているのに、聞こえてくるのはそりが雪をかきわける鈍い音と、犬達の呼吸だけだ。
 普段巨大でうるさいバイクを乗り回す私は“自然の中で生きる”ということを教わったような気がした。

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 夜になり、私達はバスに乗り込んだ。いよいよオーロラ観測だ。町から離れた場所に観察用のロッジがあり、中には暖炉や飲み物が置かれていた。着いてすぐはまだオーロラが出ていなかったので、我々は体感したこともないような極寒の地で日本の伝統格闘技SUMOUをした。他の参加者は寒い寒いと暖炉の前で凍えていたが、我々はカナダグースを脱ぎ捨て、漢の汗をかいていた。

 そうこうしていると、藍色だった空が一気に緑に変わっていった。ガイドがロッジの中にいる参加者にヘイカモンを声を掛け、我々は呆然とその変貌していく空を眺めた。この日はそこまでオーロラが活発ではなかったので帯状であったり真っ赤なオーロラは現れなかったが、空が真緑になった瞬間があった。まったくロマンがないが、水槽に張った藻のような緑と言えば分かりやすいだろうか。黒でも藍色でもなく、藻の緑が空を覆い、その向こう側に星がきらめいているのだ。
 グループ内できちんとしたカメラを持っているのは私だけだったので、私はシャッターを切りまくった。普通のスマホやデジカメではほとんど何も写らないのだ。そのことを知らなかった韓国人女子のグループは「Why we can't take pictures well!(なんで私達は上手く撮れないのよ!)」とブチギレてガイドに当たっていた。

 二日目の夜は凄かった。空に藻緑の巨大なベールがかかり、さらにその藻緑は時折真っ赤に燃えるような赤とのグラデーションになった。ガイドが言うにはこれは“レベル五”と呼ばれる最高クラスのオーロラらしく「なんてこった君達は本当に運がいいぞ!」と我々以上に大興奮だった。
 オーロラは風に揺れるレースカーテンのようにふわふわとたゆたい、現れては消えてを繰り返した。そんなテレビでしか見たことのない絶景を目の当たりにした我々は、ただ呆然と空を見上げることしか出来なかった。そのあまりに雄大な光景は我々の目を通ると胸を焦がし、記憶へと焼き付いた。おそらく私は死ぬまであの空の美しさは忘れないだろう。

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 翌日、最後の夜は地元でも美味しいと有名なレストランに行き、水牛とトナカイのステーキを食べた。イエローナイフは肉料理が本当に美味しい。これはトロントでも言えることだが、野菜の料理が美味しいと思ったことはあまりないが、肉料理はさすが欧米と言わざるをえない。カナダに行く際はぜひいろんな肉料理を食べてもらいたい。

 イエローナイフのオーロラは夏の方が快適でおススメだと言う方や両行代理店も多いが、極寒のなか、友人達と暖を取りながらオーロラを待つあのロッジでの特別な時間を体験した身としては、ぜひ真冬のオーロラ鑑賞をおススメしたい。絶景は手軽に見てはいけない。過酷だからこそ何年経っても色あせない想い出になるのだと、私は思う。

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