地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ワーホリ体験記六~イケメン変態カナダ人教師~【水無のイラストエッセイ】

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 さて念願のスピーキングクラス“I CAN DO IT(俺なら出来る)”への編入に成功した私だが、このクラスは校内でもかかなり特殊な雰囲気で、誰も近寄ろうとはしない謎多きクラスだということが入った後で分かった。

  教師は推定年齢三十三歳のブラッドというハリウッド映画の世界から抜け出してきたかのような超絶イケメンの白人なのだが、この男のクセが強すぎることが異様な雰囲気の元凶だった。
 彼の発音は世界一綺麗と言われるカナダ英語そのものなのだが、声がひしゃがれまくっていてめちゃくちゃ聞き取りづらい。さらに数日に一回しかシャワーを浴びないので臭く、服の肩の部分にはブロンドヘアから落ちたフケが白く積もっていた。
「フケが不潔だ風呂に入れ」と女子生徒に言われても「Haha, no problem! Like white snow in Toronto lol(ワハハ気にすんな! トロントの雪みたいだろ笑)」などと女子ウケ最悪のギャグをかまし、さらによく鼻くそをほじくったので、彼の容姿にときめいて編入してきた女子生徒はもれなく幻滅していった。

 ブラッドは下ネタと悪事の話題が大好きで、やれお前らが今まで付き合った人数を教えろだの、今までやらかした悪事を共有しようだのといったことを授業の話題によく選出し、女子から批判を受けていた。だが彼はとても熱心な教育者で、質問の裏に他意は無く、単に空気が読めないだけなのをみな知っていたので、誰も彼のことを嫌いにはならなかった。

 彼はこの十五年ほど彼女が出来たことがなく、家はゴミ屋敷で、この学校で自分だけがバイトなので給料が低いと、ストレスの権化のような人物だった。一度“どうすればブラッドに彼女ができるか”というテーマでセッションをした時、彼は真剣にメモを取っていたのだが、その後も変わらずフケを肩に溜めて鼻くそをほじくりまった。

 他の教師が用意するテキストは教科書をコピーしたものなのに対し、彼は毎日のテキストやテスト問題までも全て手書きのテキストを用意した。「大変なのでは」と我々はテキストのコピーを勧めたが、彼は「教科書では決まった内容しか教えられない。でも手書きならその時々の雰囲気やメンバーに合わせた物が作れるので、僕は手書きを選ぶ」と言った。話だけ聞くと理想的な素晴らしい教師だと感動するかもしれないが、我々の本音は彼の字が汚すぎて読むのに解読時間を要するため、コピーしたものを使ってほしかったのだが、彼の熱意を否定するのはさすがによくないと、ありがたく解読する道を選んだ。

 このクラスに入るのは私の知る限り百パーセント日本人か韓国人だった。ブラジル人やメキシコ人は学校教育があまり進んでおらず、単語や文法が分からないのに“とりあえず話そう”というパワーが強いので、スピーキングよりも文法を学びたい人が多いのだと思う。反対にアジア人(特に日本人)は学校で基礎は学んでいるので頭では分かってはいるが、いざ話すとなると硬直する人がかなり多いため、そういう人種構成になるのだろうと私は思う。
 ブラジル人の友人から「なんで日本人はめちゃくちゃ文法知ってるのに全然喋れないの?」と聞かれたことがあるのだが、私なりに考えがある。日本人は生徒も教育機関も英語を“いい学校に入るための受験ツール”としか見ておらず、相手と英語でやり取りをするということなどまったく想定していないのだと思う。だから喋れないのだ。

 ブラッドは多少文法が違っていてもそこまで細かく突っ込まなかったが、発音を間違えると事細かに注意してくれた。私は発音が良くなっていくのをひしひしと感じ、カナダに来たこと、そしてこのクラスに入ったことは大正解だったと感じた。
 編入して一カ月が経ち、学生生活が残り二週間になった時、一度ブラッドの勧めでレベル五に入った。ブラッドのクラスでは文法はあまりやらないため、私のスピーキングレベルが一定以上になったことで彼は文法も学んだ方がいいのではと考えたらしい。本来なら元々いたレベル四にしか戻れないのだが、彼がレベル五を推薦してくれたのだ。

 結果的に私は四日間だけレベル五の授業を受け、その後また彼の元へと戻った。たしかに文法は難しいものが多く、総合的な英語力の成長を考えればレベル五の方が良かったのだが、私はやはり彼にスピーキングを教えてもらいたかった。そこには私の渡航した目的があり、彼との信頼関係があった。
 ブラッドも「一度このクラスを出て上位クラスの雰囲気を味わった方がいい。だけどいつ戻ってきてもいい。その場合、僕は君を心から歓迎する」と言ってくれていたのだ。
 私は彼の想いに感動して「自分が女だったら惚れているなァ」と思ったが、彼が日々鼻くそをほじくっている姿を見て、一時の気の迷いだったことに気が付いた。
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