地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

全国CM主演俳優までの軌跡二~レッスンの内容~【水無のイラストエッセイ】

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  松竹芸能俳優部のレッスンに通い始めた私だが、最初は覚えることがたくさんあって大変だった。

  発声と活舌の練習で有名な『アメンボ赤いなあいうえお~』や見たことのないラジオ体操などの基礎トレーニングを最初の三十分ほどで行なうのだが、ここで事務所の誰よりも目立って成果を上げようと企む私の目が光った。雰囲気から察するにどうやらこの準備体操では毎回リーダー役を立候補で決めているようなのだが、誰も手を上げないのだ。
 自分達より先に入所している先輩達も『誰もやらないならじゃあ今日は俺やるわ』といった様子で非常に消極的だったため、立候補してもいいのだと気付いた私はそれから毎回リーダーになった。誰かが先に手を上げた時は譲ったが、先を取られた時以外は基本的にリーダーを引き受けた。こういった細かい所で『あいつは積極性アリ』と判断されるかもしれないのだ。こんな簡単なことで多少なりとも目立てるならそれはラッキーである。

 基礎トレーニングが終わると、講師がやって来て演技の練習が始まる。
 先輩を含めるとレッスン生は十五人ほど。台本は三人から六人ほどが登場するものが多く、グループに分けて順番に発表をする。こう書くと『じゃあけっこう待ち時間が多いのでは?』と思われる方も多いかもしれないが、芝居は見ることもかなり重要なのだ。人がやっているものを見ていいところは吸収すればいいし、悪いところは気を付ける。怠けてただボケ―ッとしていては成長に大きな差が出る。そしてそれは成長する速度が単に遅くなるだけではなく、講師から「あいつは他より上手いな」と思ってもらう機会を損失するということでもあるため、他人の芝居を見て学ぶというのはかなり重要なのだ。

 また、松竹は時代劇もやっているため殺陣(チャンバラ)もカリキュラムに組み込まれていた。私は模造刀を四振り持っているほど日本刀が好きなので、型を学べるのはとても嬉しかった。
 だがこの殺陣で早くも一人目が脱落した。浴衣を着て稽古をするのだが、最年長三十二歳の男が帯を上手く締められず、講師から「腰のところで一度押さえて」「腰」「いや、だから腰のところで」と何回も同じことを注意されながらモタモタしていると、ついに「君の! 君の腰はどこだー!」とぶちギレられてしまい、それ以降姿を見せなくなってしまった。そう、この殺陣の講習は恐ろしく体育会系だったのだ。しかしあれほど不器用なら役者は向いていないので、彼にとっても早々に見切りを付けられて良かったのかもしれない。

 そうやって私は必死に努力し、誰よりも目立とうと画策し、そしてみんなと仲良くしようと努めた。

 入所から半年が経ったある日のレッスン後、初日に声を掛けたイケメン“ラキオ”と私がマネージャーの女性に外に連れ出された。我々は普段からよく一緒に行動していたため『おいおいなんだなんだ何かやらかしたか?』とビクビクしながら彼女の後に続いた。
 エレベーターに乗り、松竹芸能の事務所がある上層階へと彼女は向かう。我々は事務所に来るのは初めてだったので、何が何だか分からずに『何これ? 何?』と二人でパニックになりながらすれ違う人々に気色の悪い笑顔を振り撒きながら奥へと進んだ。
 マネージャーは事務所の奥のデスクに座る明らかに偉い人の前で立ち止ると、ようやく口を開いた。
「今度からこの二人を選抜で育てたいと思いまして、挨拶に連れて来ました」

『選抜――!』

 私は心臓が飛び出そうになり、思わずラキオに目をやった。すると彼も同じように心臓が飛び出る直前の人間の顔をしていた。
 我々が動転していると、その明らかに偉い男性は「そうか、これからが楽しみだ。頑張ってね」と言ったので、私は「エッアノハイナンカドーモサーセン頑張りヤス! オス!」みたいな意味不明な謝辞を述べ、その場を後にした。
 年内を目標にしていた選抜入りが、入所半年で叶った。私は自分が超絶売れっ子の俳優になるのではないかと、ここでは恥ずかしくて書けないほどの凄い期待を抱いていた。
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