全国CM主演俳優までの軌跡五~ついにきたCM撮影~【水無のイラストエッセイ】
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事務所入所から一年が経った春の日、私がCOACHで納品を片付けて休憩に入ると、数時間前にマネージャーから着信があったことに気が付いた。私が急いでかけ直すと、マネージャーはこう言った。
「あんたに大型案件のオーディションを受けてもらいたい。日程は〇〇だけど、大丈夫?」
『大型案件――!』
私は二つ返事でオーケーし、電話を切ってから仕事のシフトを確認したところガッツリ出勤だったのだが、店に相談して休ませてもらった。店は俳優業が突発的な仕事の入り方をすることをよく理解し、快く応援してくれていたのだ。
当日、私はなるべく爽やかな恰好でオーディション会場に入った。そこには似たような世代の俳優の卵が三、四十人おり、自分はここにいる全員に勝って絶対に選ばれてみせると、ライバルの多さになお気合が入った。
大型案件というのはリーブ21の全国放送TVCMだった。私はリーブ21と聞いて『まさか自分は密かに薄毛だったのか?』と不安になったが、“髪の毛がまだフサフサの若者も、一度受診してみた方がいいよ”という、若者をターゲットにした来店訴求CMだと分かって胸を撫で下ろした。私は毛量に関してはかなりの自信があったのだ。
オーディションでは本番とほとんど同じ台本が配られ、その演技をした。私は徹頭徹尾爽やかな青年を演じ、演技の要望にも可能な限り応えた。そしてその後が面白かったのだが、カメラマンが私の周りを一周して髪の毛を念入りに撮影した。もしも私が薄毛だったら内容に矛盾が生じるため、資料として撮影したのだ。
数日後、またしても休憩時間にマネージャーからの電話に折り返すと、オーディションに合格して撮影日が決まったと伝えられた。私は気がどうにかなるほど喜び、店に戻って報告した。すると店のお姉さん達も大喜びで「よかったねぇよかったよぉ」と泣きそうになる人までいた。
私は事務所や職場の応援に感謝し、撮影日を迎えた。集合場所は吹田にある住宅展示場で、この日ばかりはマネージャーも来てくれていた。一通り挨拶を済ませて控え室に入ると、台本とケータリングが用意されていた。
『これが噂のケータリングか――!』
私はテレビなどでよく話に聞いていたケータリングを目の当たりにして感動した。マネージャーは「あんた何感動してんの?」などと言ったが、感動しない方がどうかしている。そして彼女は素っ頓狂なことを言うだけ言ったら事務所に戻っていった。忙しいのだ。
台本を読んで演技の確認をしていると、助監督がやって来てこの後の流れについて説明をしてくれた。私は一言一句聞き逃すまいと彼の言葉に全神経を集中させ、内容を確認した。事前に聞いていた通り、撮影日は今日と明日の二日間で、今日は“自宅で犬と母との日常シーン”明日は“受診に行くシーン”とのことだった。
助監督が出るとほぼ同時にメイクさんがやって来て、私の顔面を綺麗に整えてくれた。
『これが噂のメイクか――!』
されるがままの私の顔面はあれよあれよという間に整えられた。
「ワックス付けて来られてなくてよかったです。助かります」
と彼女は言った。私は女優さんがメイクのためにすっぴんで現場入りするというのをドキュメンタリー番組で見ていたので、普段では絶対にしない“髪型すっぴん”で来たのだ。
メイクが終わると助監督に連れられてスタジオに入った。
「息子役の水無さん入られまーす!」
「お願いしまーす!」
現場のスタッフさんに大きな声で挨拶され、私も「よろしくお願いします!」と返した。実力や経験はともあれ、やる気だけはあるのだ。
振り向くタイミングや表情、声のトーンなどを何パターンか撮り、撮影は進んだ。犬NGなどでテイクを重ねることもあったがおおよそ順調に進み、その日は解散となった。
www.youtube.com↑動画もある。見たことある方もいるのではないだろうか。
翌日、昨日の住宅展示場とは打って変わって、天井が二十メートルはありそうな巨大なスタジオで、見たことのないその高い天井を見上げすぎて私は腰を痛めかけた。
クライアントであるリーブ21の方々に挨拶をして、実際の店内を再現したスタジオで頭皮マッサージやスコープでの検査を行ない、動画の撮影に関しては私はNGも出さずスムーズに進んだのだが、スチール撮影が鬼門だった。
ホームページや店舗のポスターで使うための写真を撮るのだが、動画と違って笑顔をキープしないといけない写真撮影は、慣れていない人間だと尋常じゃないほど頬の表情筋が疲れるのだ。巨大なスタジオ、何十人もの大人達、大きな案件――そういったプレッシャーが私の顔面をこわばらせ、気持ちの悪いピクピクとした半笑いの表情にした。
これはマズいと思った私は撮影の転換のわずかな時間で頭をブルブルと振り、口を大きく開いて動かし、気持ちを落ち着かせた。そのことでなんとか撮影は乗り切ったが、後日ホームページを確認するとイマイチイケてない表情の写真もチラホラとあり、申し訳ない気持ちになった。そこで私は友人を借り出して人の多い場所で撮影をしてもらったり、表情筋のトレーニングをして笑顔を五分間キープしたりと、スチール撮影に慣れるための特訓をした。
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