地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

全国CM主演俳優までの軌跡四~クロちゃんとロケ~

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  ライバルのラキオが初めて貰った仕事はワイドショーの一コーナーで品物を紹介する役で、放送にはきちんと名前のテロップが付けられていた。私はその放送を見て『絶対に負けていられない』と闘志を燃やした。

  私はそれまで以上に選抜クラスでの芝居に打ち込んだ。講師から貰った意見をしっかり取り入れ、さらに台本を読み込んで情景や心理の描写を自分の解釈で落とし込む。私は芝居に一心不乱に打ち込んだ。

 そうしてレッスンをこなしていると、その努力が評価されたのか、ついに私にも仕事の依頼が入った。それは『稲川淳二の投稿怪談二〇一一』というホラー番組の再現ロケだった。
 オーディションを経て実力で勝ち取った仕事ではなかったが、事務所が仕事を回してくれたという事実は私に自信を与えた。

 いざ撮影当日、集合場所で待っていると、最初に来たスタッフさんから「めちゃくちゃ早いですね!」と驚かれた。私は当時泉大津という市内から少し離れた大阪南部の町に住んでいたため、電車の遅延で遅刻しないよう予定時間よりもずいぶんと早く来ていたのだ。共演者はお笑い芸人プリンセス金魚大前さんと女性タレント二人、そして幽霊役のタレントさんの計四人。“仲のいい男女四人組が登山中に怖い目に合う”という設定だった。

 ロケ車での移動中、私はとても嫌な話を聞いた。どうやらこのホラー番組が呪われたものにならないよう、出雲だか住吉だかの祈祷師がまさに今絶賛悪魔払いの祈祷をしているとのことだった。冗談かと思ってそう聞いてみると、「本当です。気を付けましょうね」と言われた。いったいどうやって悪魔に気を付けろというのだろうか。事前に聞いていたら実家の畑で調達したニンニクでネックレスでもこしらえてきたというのに。

 仕事を貰った興奮ですっかり忘れていたのだが、私はホラーが死ぬほど苦手なのだ。小学生の時に見た江戸川乱歩の“地獄の道化師”に出てきた屋根裏でもだえる全身火傷の包帯女や、名探偵コナンの園子の別荘に出た包帯男や図書館の館長など、トラウマになっているホラー作品が大量にあるのだ。
 そんな私が今向かっているのは、不吉な出来事が起こったとされている兵庫県の呪われた山。私は人生で初めて「ああこれからトラウマが増えるんだな」と前もって予感することができた。

 撮影内容は若者四人組が登山中に怪しい男に怖い目に合わされるといったもので、案の定暗い廃墟や山道を歩かされて私の心臓は暴走する魔列車のように駆け足で脈打っていたが『ちゃんと芝居をしなくては』という意識が正気を保つ後ろ盾となっていた。

 台本にはおおまかな流れやキーとなる台詞だけが書かれていて、その他は“仲のいい男女の楽しそうな会話”というオーダーしかなかったので、私は全員に話を振りながら喋り続けた。話を回すのが私の最大の特技なのだ。

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※右から二番目が私

 こうしてロケは予定通り終了し、そして予定通り私の心にトラウマが刻まれた。今でもたまにあの暗い廃墟を夢に見てしまう。出雲だか住吉だかの祈祷師は本当に仕事をしていたのだろうか。

 そしてその数週間後、私とラキオがレッスンを終えて身支度をしていた二十時過ぎ、マネージャーから突拍子もないことを言われた。
「ごめん二人今から長崎まで行ってもらえない?」
 目が点になるとはこのことである。何事かと聞くと、どうやらこれから松竹の先輩であるますだおかださんと安田大サーカスさんがロケに出るのだが、後輩役で出てほしいため、あと三十分で出発するバスに乗って長崎まで行ってほしいとのことだった。
 あまりに突然のことで私達は大笑いしながら受諾し、バスに乗り込んで突然の旅を楽しんだ。ラキオと一緒に仕事をするのは初めてだったので、私は嬉しかったのだ。
 ロケは犬だらけのゴミ屋敷を掃除するというバラエティー番組で、カメラが近付いてくると私は気の利いた笑いを飛ばし続けたのだが、放送では発言は全てカットされており、糞尿にまみれた家をせっせと掃除する姿だけが映し出されていた。しかも紹介のされ方が後輩芸人扱いだったので、放送を見た友人達からは「お前芸人に転身したのか」と言われる始末だった。
 ちなみにクロちゃんは休憩時間に「もーヤだ疲れたジュース飲みたい!」と一人で騒いでいた。そこにあるんだから飲めばいいのにと、ラキオと二人で不思議に思っていた。

 そうやっていくつか仕事を回してもらえるようになり始めた二年目の春、ついに私の元に大きな仕事の話が来た。
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