地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

恐怖!アウェイでの応援上映【水無のイラストエッセイ】

f:id:Essay_Miznashi:20200723103311j:plain

読み終わった後はぜひブックマークボタンを押して応援お願いします(‘∀‘)

 応援上映という、数年前に生まれた映画館の新しい試みをご存知だろうか。

  映画に対して、観客が自由に声を出してツッコんだり、文字通り応援したりしてもいいという、これまであった『上映中は物音一つ立てるな』というルールとは真逆の楽しみ方だ。かくいう私も映画はとにかく他人の邪魔が一切入らない状態で見たい派なのだが、近年スマホをいじったり途中で席を立ったりする輩が多いため、映画館からはすっかり足が遠のいてしまっていた。

 ある日、私は友人から応援上映に来てほしいと言われた。どうやら予約グッズをコンプリートしたいがためにチケットを十枚以上購入したようで、タダでいいから一緒に来てほしいと言われたのだ。
 その話を受け、返事はちょっと待ってほしいと伝えた。私はちょっとやそっとじゃ負けないくらいの強烈なアニメオタクなのだが、今回誘われたようなアイドル系アニメはどうも苦手なのだ。元々人間のアイドルや女優さんにもお熱になるタイプではなく、アイドル系アニメも一通りは見たが私には刺さらなかった。
 そうして改めて応援上映について調べて得た知識が、冒頭に書いたものだ。私は応援上映に自分が参加している姿を想像して気付いたことがあった。それは音楽のライブに似ているということだ。自分の好きなものを見て、声を上げて盛り上がる。対象が映画か音楽かという違いだけだ。

 私は普段と違って、そういう場に行くと非常にノリの悪い客になる。知り合いが出るライブに行っても、死ぬほど好きなバンドのライブに行ってもただジッとガン見するだけだ。決して「うぉおおお!」とはならないし、ましてや手を振ったり踊ったりなど絶対にしない。
 誤解が無いように言っておくが、私は一時期音楽に人生を捧げていたほど音楽が好きだ。だがライブでは場を楽しむのではなく、しっかりと目に焼き付けて感動に浸りたいだけなのだ。

 そう考え、私は応援上映への誘いを断ることにした。どう考えても場違いだし、自分のノリの悪さがよろしくないことも理解している。私は実際そう言って断ったのだが「昼飯も奢るしさ~食わず嫌いはやめて一回だけ行ってみよや!」と言われ、なるほどそれも一理あると思い、私は食わず嫌いをやめて早々に自分の意見を曲げることにした。決して昼飯に釣られたわけではない。

 当日、映画館の前で待ち合わせていると、映画を見に来たとは思えないような装備を身にまとったザ・オタクの皆さんが次々とやって来た。ある者はそのアニメのTシャツを着ていて、またある者は鞄から溢れんばかりのサイリウムを持っていた。なんだこれはと異様な光景に戸惑っていると友人が現れ、私は中へと連れて行かれた。ダメだもう後には戻れない。

 私の疑問はただ一つ。『いったいどれぐらい応援するのか』これだけだ。
 知識は事前に調べた文字情報のみ。声を出してもいい映画とのことなので、例えばキャラが挫けそうな時は「頑張れ頑張れ~」と応援し、可愛いと思ったら「可愛いなァ」と呟いても咎められないとか、そういうものを予想していた。

 しかし、現実はまったく違っていた。

 配給会社の表示が消えてキャラの姿がスクリーンに映し出された瞬間「うぉおおおお出ーた出ました〇〇ちゃん!」「ハイっ!」「今日もショートが似合いますゥ!」「ヨイサ!」といったような怒号に近いレベルの叫び声が全客席から上がり、私は動物病院に連れてこられたチワワのように怯えながら辺りを見た。するとオタクの皆さんが見たこともないくらいハツラツと叫んでいるではないか。
 私は友人に『凄いね』と小声で言いながら彼の方を見ると、彼もまた気が狂ったかのようにキャラの名前を叫びまくっていた。ああなんてことだ、こいつもあっち側の人間だったのだ。
 急に世界で一人だけになった私は上映開始わずか十秒で早くも猛烈に帰りたくなったが、この映画は初見なのだ。せっかく時間と交通費を使って見に来たのだから、せめて内容は楽しんで帰ろうと私は本編に集中することにした。

 結果、これを書いている今あの映画について覚えているのは『ライブをしていた』『何か言い合いをしていた』『周りがずっと大声で応援していた』この三つだけだ。冗談ではなく、他は何一つ記憶に残っていない。そういえば約束の昼食は奢ってもらったのだろうか。それさえ本当に覚えていない。
 私が体験したアレが応援上映の全てかどうかは分からないが、私はやはり好きな映画は一人部屋に閉じ籠って見るのが性に合っていると、そう再認識したのであった。
――――――――――
これからもエッセイを投稿していきますので、気に入っていただけましたらぜひフォローお願いします。
ブックマークや感想を残していただけると非常に嬉しいです。質問等もお気軽にどうぞ。喜んで返信させていただきます。
ありがとうございました。