地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

VTuberを仕事で作った話【イラストエッセイスト水無】

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 前回『気付けば1,000万再生のYouTuberにされていた話』というエッセイを書いたが、今回もYouTubeについて書こうと思う。

  わりと前の話だが、会社勤めで映像制作をしている私の元に一件の依頼が舞い込んできた。それはとある有名企業からで「VTuber(バーチャルユーチューバー)事業に手を出したいので協力してほしい」というものだった。会社は何を思ったのか担当を私に指名したので、私は「VTuberが好きな他の人の方がいいんじゃないか」と訴えたが「いやいやこれはあなたみたいなキモオタじゃないと務まらないから(ほぼ原文ママ)」などとクソほど失礼なことを言って私を担当者に仕立て上げた。こうして何の知識もない私はVTuberの世界へと足を踏み入れたのだった。

 私の会社はVTuber関連の技術はゼロだったので、私がやるべきことは企画を考え、動画を編集し、チャンネルを運営することだった。つまりバーチャルの撮影以外ほぼ全てだ。
 依頼を受けるにあたり、私はそれまでまったく見たこともなかったVTuberの動画を見まくり、改めてどういうものかを学んだ。しかしバーチャルなのでキャラクターが出来上がらないことには何も始まらない。私はキャラクターのラフ案や声優さんの声質などを参考にしながらキャラ付けや企画の準備を進め、キャラクターの完成を待った。
 数週間後、キャラクターが完成したのでいつでも撮影可能だとの連絡を受け、バーチャルの撮影をするスタジオに足を運んだのだが、なんと顔のパターンを十種類ほど注文していたはずがほとんど同じような三つしかなく、なにより全然可愛くなかった。
「こんな顔面で群雄割拠のバーチャル時代を勝ち抜くのは不可能だ」と判断した私は顔面の整形を依頼し、その間に必殺の決め台詞を発案した。

 話を受けておよそ二カ月後、ようやく初めての撮影に臨んだ。声優さんは声だけでなく、モーションキャプチャーと呼ばれる装置を装備しており、彼女の動きがリアルタイムでバーチャルのキャラクターを動かし、それを録画するというものだった。だがこのモーションキャプチャーがこりゃもう大変で、ちょっとでも規定外の動きをすると足はもつれ手はこんがらがり、首はゾンビのような角度に傾いた。そして何より大変だったのが苦労して作ってもらった顔面だった。なんと表情の切り替えが手動だったのだ。つまり撮影中は顔面専門のオペレーターを添えて、キャラが笑った瞬間に笑顔の顔面ボタンを押し、怒ったら怒った顔面に切り替えるというなんともアナログな手法を取るほかなかった。当初はフェイスキャプチャーをして声優さんの表情に合わせて自動で切り替わると聞いていたのだが「やっぱり無理でした」と言われ、私は顔面オペレーターの人件費がかさんだことで頭を抱えた。

 そんな産みの苦しみを味わいながらようやく世間様に向けて配信が開始された我らが秘蔵っ子だが、はじめのうちは当然ながら数回数十回の再生しかされなかったが、回を重ねるごとに数百、数千と再生されるようになった。私の考えた必殺の決め台詞もウケ、彼女のバーチャル界デビューも上々かと思われた。

 だが配信開始から一年が経った頃、話を持ちかけてきた会社の予算の都合で突如彼女はバーチャル界から姿を消すこととなった。群雄割拠と先述したように、キズナアイを筆頭に今や数え切れないほどいるVTuberの中で彼女は突出して輝けるほどの何かを持ち合わせていなかったのだ。だが彼女の責任は顔面や一切肌を露出しない頑なさぐらいのもので、問題の多くは一回の撮影で大人が十人は動くことや、私の企画が群を抜いていなかったこと、そして運がなかったことなのだ。この運というのは失敗した際の言い訳に使われがちだが、ことYouTube業界においては成功にかなり大きく関わってくる要素なのだ。

 こうして私は彼女と共にVTuberの世界から手を引いた。わずか一年の出来事だったが、私の映像制作史の中でもかなり珍しい体験だったため、今後忘れることはなさそうだ。心残りと言えば、彼女が笑いながらゾンビのように首を傾けて話すあの恐怖映像をもう二度と見られないことぐらいだ。
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都知事選の明日は『外出禁止とゲーム禁止の共通点』というエッセイを書きます。気に入っていただけましたらまたご覧ください。
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