地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ワーホリ体験記二~現地警察に逮捕される疑惑~【水無のイラストエッセイ】

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 二〇一三年の十二月六日、私は関空を出発した。独学で二カ月勉強したとはいえ外国人との会話など未知の領域である私は、キャビンアテンダントとの簡単な会話でさえ心の中で何度も暗唱した。ちなみに私がこの旅で一番最初に放った英語はずっと練習していた『Can I have a whole can of coke please?(コーラを缶のままください)』なのだが、私が受け取ったのは紙コップに入ったコーラだった。なぜだ……。

  関空からトロントのピアソン国際空港までは直行便だと十五時間ほどで着くのだが、いかんせん私はドケチなので、直行便よりも四万円ほど安いフィリピンとバンクーバーを経由して二十五時間かかるという地獄のようなフライトを選択した。九時間短縮するために四万円も払うのはバカらしいと思っていたが、このフライトで自分のお尻がめちゃくちゃに崩壊するとは夢にも思っていなかった。

 だが問題はお尻だけではなかった。フィリピンで乗り継ぎをするために一度機内から出て次の飛行機が待つ搭乗口を目指して進んでいると、検査場みたいな場所があったのでパスポートやチケットを渡した。するとなにやら彼らはバタバタとし始めて、私を謎の裏口からわけの分からない場所へと案内しようとするではないか。私は焦りに焦って「What?」を連発したのだが、検査官は面倒くさそうな顔で私を裏口へと案内しようとするばかり。
『なんか知らんが終わった……』
 私はもうカナダへは行けないのだと早くも絶望に駆られ、男に従った。いったい私が何をしたというのだろう。まさか日本での数々の悪事がバレて『こいつはカナダどころかフィリピンにさえ入国させるわけにいかない!』と現地警察へ突き出されるのではないかと、私は本気で顔面蒼白になっていた。
 この男さえやってしまえば全て有耶無耶になるのでは……などと考えながら男の後を追って二分ほどが経った時、男が一人いるだけの簡素なチェックポイントへと案内された。私は何が何だか分からずにパスポート一式を渡すと、男はそれをサングラス越しに見て私へと返却した。すると私を連れてきた憎き検査官は無言で元の方へと戻っていき、どうすればいいのか戸惑っていると、男が「Go straight(真っ直ぐ進め)」と行ったので、私は警察が来て捕まる前に逃げようと、急いで男の言う方へと進んだ。するとそこはもう搭乗口が並ぶ和やかなエリアで、動転した私はビンビンキオスクという明らかにふしだらな店でコーラを買って飲んだ。
 そして意味が分からないままチケットに記された搭乗口へ向かい、時間になると飛行機に乗った。今考えてもあれはいったい何だったのか、詳しい人がいたら教えてほしい。

 さてバンクーバーに到着して地獄のフライトもようやく後半戦に突入したのだが、ここでの立ち寄りはかなり奇妙だった。フィリピンでの乗り換えとは違ってバンクーバーはただの“立ち寄り”なので、私は着陸した後も機内に残った。するとエプロンをつけた金髪美女達がやってきて機内の掃除を始めた。テーブルを拭いたりゴミを片付ける金髪美女もいれば、『グモオオオオ』と凄まじい音を立てて掃除機をかける金髪美女もいた。私は呆気に取られたまま彼女達の仕事っぷりを最後まで見物し、やがて新たな乗客で席が埋まった飛行機は私の最終目的地であるトロントへと飛び立った。

 出発から二十五時間後、崩壊したお尻を引っ提げて私はカナダ最大の都市トロントに降り立った。真冬のトロントは想像していたよりも寒く、また最大の都市とは言え空港は片田舎にあるようで、閑散としていて寂しい印象を覚えた。
 私は事前に印刷しておいたホームステイ先への行き方を見ながらバスに乗り、電車に乗り、そしてまたバスに乗った。日本の公共交通機関と比べて劇的に説明が少ないので、何度も確認する必要があった。

 最後のバスに乗って夕暮れに沈む見知らぬ町を眺めていると、これまでまったく縁も所縁もなく、好きだとか嫌いだとかも考えたことのなかった国で今こうしてひとりキャリーケースを抱えている自分が不思議でならなかった。

 この国で自分はどう変わっていくのだろう。英語力だけじゃない。価値観の変化や経験値、新しい友人。そういったものを手に入れることで、この国を発つ数カ月後にはきっと今とは違う自分になっているはずだ。私は袖で曇った車窓を拭き、流れる景色をぼんやりと眺めた。英語だけの看板、これまで話したことのない人種。自分は今、完全にアウェイだ。だけど見ていろ。私はここで大切な何かを手に入れて帰る。そう強く決意し、視線をバスの電光掲示板に戻すと、降りるべき停留所を通り過ぎていることに気が付いた。
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