地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

夢を自由に操るすべ【エッセイスト水無】

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 明晰夢(めいせきむ)という言葉を聞いたことがあるだろうか。夢の中で「これは夢だ!」と自覚することで好き放題に行動できるという、この世全ての欲を満たすことができる行為だ。

  私が明晰夢のことを知ったのは十五年ほど前の高校生の頃だった。テレビで自分の思うとおりに夢を操作できる方法があると知り、すぐに近所の図書館に行って明晰夢について調べた。するとやはり数冊の関連書籍があり、やりたいことだらけの欲にまみれてそれらを読み漁っていると、色々なことが分かった。

【メリット】
 夢の中で好きなことができる
 繰り返し見る悪夢やPTSDの改善が見込める
【デメリット】
 夢と現実の境目が分からなくなり、パニックになる可能性がある
 金縛りになる可能性がある
 精神障害がある人は悪化する可能性がある
 夢から抜け出せなくなる可能性がある

 本にはおおよそこのようなことが書かれていた。慎重派の人はデメリットの部分を見て二の足を踏みそうだが、目の前が希望で満ちていた純真な男子高校生の私には、そんなものは視界にさえ入らないレベルの些末な問題でしかなかった。

 メリットやデメリットは分かった。問題は出来るかどうかだ。どの本に書かれていたのもだいたいは同じ内容で、コツは二つあるという。一つは夢日記を付けること、そしてもう一つは、方法は何でもいいので普段起きている時に何度も特定の行動をすること。例えば深呼吸をする癖をつけるなら、夢の中で深呼吸をした時、大きく息を吸っているにもかかわらず空気が入ってこない――といった普段とは違う違和感を探し出すことで、これは夢だと自覚出来るようになるらしい。

 私は家に帰るとさっそく一冊のノートの表紙に『夢日記』と書き、ベットの脇に鉛筆と共に置いた。親や姉達がこの環境を目にしたらかなりヤバい奴だと思われそうだが、そんなことを気にしていては明晰夢は見られない。見ていた夢を忘れる前に書き記さなければならないので、起き上がってノートやら鉛筆を取りに行っている暇などないのだ。

 こうして私は朝起きたらすぐに夢日記を付けて明晰夢を見ようと鼻息荒く毎夜眠りに就いたわけだが、この計画には一つ致命的な問題があった。それは私が朝まったく起きられないという点だった。詳しいことはまた別の機会に話そうと思うが、当時の私の寝起きの悪さは尋常ではなく、夢日記などつけるのは不可能だということが一週間ほど経過した時点で判明した。これには私も辟易した。万物全ての願いが叶う明晰夢を当面の人生の目標に掲げていたのに、それが自分の寝起きの悪さなんかで叶わないと分かったのだ。やさぐれた私は、明晰夢のことを無理やり記憶の隅に追いやった。あの頃の私は朝スムーズに起きることが本当に出来なかったのだ。

 それから何年もの月日が経ち、私は結婚した。明晰夢のことなど記憶のどの棚にしまい込んだのかさえ忘れていたのだが、ある日義妹と話していると、なんと彼女は明晰夢を何度か見たことがあると言い出し、私はかつての憧れを思い出した。今では朝も問題なく起きられるため、私は義妹から明晰夢のやり方を詳しく聞き出した。まだ十回ほどしか会っていないのに、夢の中というあまりにプライベート満載のことをこんなにも根掘り葉掘り聞かれるとは思っていなかったであろう彼女だが、いやな顔一つせず自分のやり方を教えてくれた。しかし彼女のやり方は非常にスタンダードで、かつて私が挑戦したやり方とほとんど同じだった。

 私は今度こそと夢日記をつけ始め、早くも二年半が経過した。しかし未だに明晰夢は一度も成功していない。私に才能がないのかやり方が間違っているのかは分からないが、十五年も夢の中で好き放題したいという欲求について悩むのは、さすがに馬鹿らしいのではないかと思い始めた。
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