地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

朝食難民【エッセイスト水無】

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 私が二十六歳になった頃、朝食に何を食べればいいのか分からなくなった。
 実家暮らしをしていた頃はおかんが毎日和食やらフレンチトーストやらサンドイッチを作ってくれていたので『朝食に何を食べるか』など考えたこともなかったが、朝食というのは手間をかけずに飽きないよう支度するのが最も困難な食事だと私は思う。

  二十二歳の時に大阪の泉大津という町で一人暮らしを始めた私は、毎朝食パンにチョコレートを塗ったものや菓子パンを食べていた。しかし多少健康マニアのきらいがあった私はその食生活に自ら警告を鳴らし、なんとかしようと模索し始めた。だが当時の私はまだ低血圧で寝起きがよろしくなかったため、仕事前にせっせと朝食を準備するなどと言ったことは到底出来なかった。そんな怠け者の私が辿り着いたのがシリアルである。子どもの頃はたまにしか買ってもらえなかったが、今この窮地を脱するにはシリアルしかないと思った。私は近所のダイエーでシリアルを三種類ほどと牛乳を二パックを買い込み、しばらくの間朝食時に食べ続けた。

 世の中には同じものばかりを食べていても幸せだという人間がいる。私の妻がそうだ。彼女は毎朝食パンにバターを塗っただけのものを食べ、冬にはそれとコーンスープかじゃがいものポタージュを飲む。彼女の朝食は一年を通して本当にそれだけで、他のものを食べている姿を見たことがない。飽きないのかと聞いたところ「美味しいから飽きない」などと、私には到底理解できないことを述べた。
 そう、私は面倒くさがりなうえ非常に飽きやすいのだ。朝食であっても同じものを三日食べ続けたらもう嫌になってくる。コーンフレークやフルーツグラノーラなど、シリアルの種類を変えればある程度は大丈夫だが、それでも一ヶ月朝食シリアル生活を続けたところで限界に達した。もうシリアルなんて見たくないという境地にまで達した私が次に手を出したのは、ご飯のお供で米を食べる日と、食パンにジャムやらピザソースやらを塗って食べる日を交互に儲けようというものだった。加えて前夜の残り物を食べるということも学習したため、三段構えの完璧な朝食対策が整ったと私は喜びに満ちていた。

 思惑とおり、最初の半年ほどは飽きることなく良い朝食ライフを過ごすことができた。しかし徐々にではあったが、一つの不満がふつふつと私の中で体積を大きくし始めていた。食パンがおいしくないのだ。いつもわりと多めにソースを塗っていたのだが、どうにもこうにもパン本体がパサパサしていて美味しくない。ケチが具現化したかのようなイヤらしい私は八十円ほどの安い食パンを買っていたため、それが原因だった。
 このままでは三段構えの一角が崩壊してしまうと危機感を覚えた私は、美味しいと噂の超熟パンを買うようにした。しかし時すでに遅し、私はほどなくして食パンを見るのも嫌になってしまった。
 一角が崩壊したことで残りの二角も徐々に崩れ始め、私は朝食という行為そのものが嫌いになってしまった。

 これでは身体よりも精神面で不健康になってしまうと危ぶんだ私は、朝食に健康と安さを求めることをやめた。食べたい菓子パンがあれば買い、仕事帰りに寄ったスーパーで弁当が安ければ翌朝分を購入した。こうして不健康な朝食ライフが二年ほど続き、私はカナダに語学留学をすることになった。そしてそこでもやはり朝食事情で私は頭を抱えた。

 食パン嫌いがだいぶ良くなってきた私はカナダでも数種類の食パンを食べたのだが、どれもこれもやたらとパサパサしていて、においもかなり小麦臭がきつかった。私はもう一生食パンなんか食べないというところまで行きついてしまい、ピザやマフィン、ヤバい色のシリアルなどに手を染め、九カ月の留学生活を乗り切った。

 帰国後、食パンを一生食べないと宣言した私の朝食事情は著しい難局を迎えた。分かってはいたが、やはりものぐさでケチな私には選択肢があまりに少なかった。
「要は同じものばかり食べるからよくないのだ」と、これまで書いてきたものをなるべく偏らないよう気を付けるくらいが関の山だった。

 結局何の解決策も見出せないまま月日が経ち、今私は新たな局面を迎えている。身体がすぐに疲れるのはたんぱく質が足りていないからだという情報を手にした私は、植物性のソイプロテインを飲み始めた。これが実に手軽でいい。値段も高くないし、いろんな味があって美味しい。朝食としては申し分ない。

 だが皆さんはお分かりだろう。今はまだ飽きていないが、どうせきっとまたプロテインばかりを飲み続け、近い将来「もう二度と見たくない」などとこの男は言うのだ。

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これからもエッセイを投稿していきますので、気に入っていただけましたらまたご覧ください。
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ありがとうございました。