ヘアカットにかける額【エッセイスト水無】
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ヘアカットに何円使うか。これは人によってかなり開きがあるのではないだろうか。
私は中学3年の時、床屋で角刈りにされた。爽やかな俳優みたいにしてほしいと依頼したら、60歳近い店主は彼の学生時代に流行っていた俳優の髪型を私の頭で再現したのだ。当時の私はひとりで1時間以上かけて大阪難波のアメリカ村に行くような洒落っ気の付いてきた生意気中学生だったので、自分の顔の上に鎮座するそのあまりに漢らしい髪型に絶望し、しばらくの間登校を拒否した。
そんなことがあり、私は親に頼み込んで2,500円もする美容室に行かせてもらうようになった。近所のスーパー『オークワわくわくシティ』の前にあるガラス張りのオシャレなお店で、あの700円の床屋に置いてあるよくわからない赤青白のくるくる回る置物も出ていない。入店と同時に私は「自分なんかがこんなシャレた場所に来てしまっていいのだろうか」と、息まいていたわりに根の小心さが出て、謎の罪悪感に見舞われた。
見たこともないような回る椅子でくるりと回された私は鏡と対面し、苦笑いを浮かべる。すると渋い大人のイケメン男性が「どうぞ」と本を差し出してきた。
「ぬ?」
ヘア雑誌やらファッション誌が前に並べられ、わけも分からずとりあえず一番上にあったヘア雑誌をしばらく読んでいると「どういう髪型にしますか?」と彼は聞いてきた。
しまった、ただ読むだけじゃなく、この中から髪型を選べと言うことだったのか……。私は何も考えずにぼんやりと雑誌に目を落としていたことを恥じ、慌ててショートカットのページの中から希望する髪型を選んだ。言ってくれればいいのにと思ったが、ここはオシャレな美容室。きっと多くを語るのは無粋なことなのだ。
しかしひとたび施術が始まるとシャンプーは気持ちよく、髪型も感動的な仕上がりを見せた。それに会話がとてもスマートだったのも印象的だ。700円の床屋の店主はいつもラジオに耳を傾けており、珍しく口を開いたかと思うと相撲の話ばかりで、散髪も話も早く終われといつも耐え忍んでいたのに対し、イケメンのお兄さんは私が着ていたバンドTシャツに目を留め、音楽と服の話をしてくれたのだ。同級生は音楽や服の話に興味を持っていなかったため、このマセガキは自分が大人の会話をしていることにたいそう感動したのだった。私は大喜びで家に帰り、おかんにあの美容室の素晴らしさを延々と説いた時のことを今でもよく覚えている。
大人になってからはやれブリーチだチリチリのツイストだと、カットだけでなくいろんな髪型を試す機会も増え、8,000円ほど使うことも珍しくはなくなった。しかし私は最近、とんでもなく素晴らしい店を見つけた。それは下北沢にあるロコマーケットという店で、カットがなんと1,200円なのだ。しかも相撲の話をしてきそうな床屋ではなく、普通にオシャレな美容室。
クーポンを見比べてコロコロと店を変えるのはもうおしまいだ。私はこの店に死ぬまで通いつめようと心に決めた。
周りに美容代事情を聞くと、べつに金持ちでもないしオシャレにも無頓着なのにシャンプーとマッサージを付けて毎月10,000円使っている男もいれば、私の妻のようにオシャレは好きだが半年に1回のパーマで年間10,000円しか使わない人もいる。
床屋、美容室、はてまた自宅カット。髪を切る場所や方法はいろいろあるし、かける額も人によりけり。ヘアカットにはその人の価値観が如実に浮かび出て、じつに面白い。
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これからもエッセイを投稿していきますので、気に入っていただけましたらまたご覧ください。
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