地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ワーホリ体験記三~始まった外国での生活~【水無のイラストエッセイ】

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 実家を出てからおよそ三十時間が経ち、私はようやくホームステイ先の家に辿り着いた。時刻は十九時を回っていて、日本では考えられないような広い道路の左手にその家はあった。インターホンを押すとジリリリリと日本では聞かない音が響き、しばらく待つと中から母親が出迎えてくれた。私は名乗り、これからよろしく頼む旨を暗記した英語で伝えると、ハグをされた。そうだここは英語しか通じず陽気でキリストを信仰する国なのだ。私はさっそく文化の違いを目の当たりにして目がくらんだ。ジーザス・クライスト。

  目が覚めると、陽射しがわずかな隙間からこぼれる薄暗い部屋のベッドの上で私は寝転がっていた。靴はベッドの脇に置いてあり、部屋にはカギが掛かっていた。着いてからのことはよく覚えていないが、最低限のことだけして眠りに就いたのだろう。

 この日は土曜日で、学校が始まるまで丸二日あったため、私は街に出た。トロントの交通事情は電車、バス、ストリートカーの三種類で、事前にトークンと呼ばれる乗車コインを買っておけば三つともどこまで乗っても三ドルで、乗り継ぎもタダという分かりやすいシステムだ。
 私は昨日まとめて買っておいたトークンを運賃箱に入れてバスに乗り、「Transfer please(乗り換えチケットちょうだい)」と言ってチケットを貰った。事前に勉強しておいたのだ。

 ブロアヤングという駅で電車を降り、町を歩いた。カナダで一番都会であるトロントの中心地のここは、日本で言うと東京の有楽町あたりがイメージに近いだろうか。高層ビルや高級ブランドショップが立ち並び、少し歩くとローカルな飲食店やアパレルショップがビシッと軒を連ねている。
「ここがこれからしばらく暮らす街か……」
 私は何屋かもよく分からない店の看板を眺めたり、すれ違う見たことのない車に目を留めたりしながら大通りを南下した。

 しばらく歩くと、巨大なショッピングセンターが現れた。偶然見つけたここはイートンショッピングセンターというトロント最大のショッピングセンターで、館内はクリスマスムード一色になっていた。
 中には私達のよく知るザラやフォーエバー21、アバクロなども入っていたが、まったく見たことのない店舗が数多く入っており、買い物好きの私は早くも『渡航先にカナダを選んだのは大正解であった』と有頂天になり、物色を数時間続けた。

 小腹が空いたので昼食を取ることにしたのだが『食事を取るにはカナダ人と英語で話さなくてはならない』という当然の事実を思い出し、私の心臓はツーバスドラムのハードコアのように、緊張するための血液をドコンドコンと全身に送り始めた。

 レストランに入るのは不可能だと判断した私は、去年銃の乱射事件が起きたといういわくつきのフードコートに向かった。
 フードコートいうのは面白く、その国の食の雰囲気が何となく分かるので、私は外国に行くと立ち寄ることが多い。
 私は何かの賞を受賞したのであろうトロフィーが飾られた店を選んだ。欧米と言えば肉だ。であれば無類の肉好きである私の最初の食事も肉でなければならない。
 どういった料理なのかのはメニューを見てもよく分からなかったので、私はホットバーベキューミールを頼んだ。食べ終わったらまた寒い外を歩いて帰宅する。ホットと言うからには温かい肉料理なのだろうとアホな私は考え「Hot BBQ meal please」と言い、クレジットで払う旨を伝えた。するとカードをそこの機械に差せと言われたのだが、あれは完全に初見殺しなので渡航予定者は事前学習しておいた方がいい。まったく使い方が分からない。

 待つこと数分、ピピピピピと渡された機械が鳴ったので、私は食事を受け取りに行った。するとどうだ、見るからに辛そうな肉料理が皿に乗っているではないか。
「ぬ?」
 私はこの店員が間違えやがったのだと思い「Is this a hot BBQ meal?」と奇跡的とも呼べるきちんとした英語を操ったが、彼は「Yes」と答えた。これはいったいどうしたことか……。私はカレー屋では絶対に甘口を頼むほど辛いものがダメなのだ。
 席に着いて恐る恐る一口食べると、そりゃそうでしょうめちゃくちゃ辛い。着ていた服をほとんど脱ぎ、汗をボトボト流しながらなんとか完食した私はネットでホットの意味を調べ、理解した。ホットとは英語でクソ辛いという意味だったのだ。ホットが辛いということくらいわりとみんな知ってそうだが、辛い物に見向きもせずに生きてきた私はそんなことなど知らなかったのだ。
 荒ぶる気持ちを抑え込み、私はフードコートを後にした。私がもしカナダ人だったなら、今年も同じ場所で銃の乱射事件が起きていたかもしれない。

 家に帰って勉強していると、お母さんが「夕食だから来なさい」と私を呼んだ。私の宿泊プランは朝と夜の二食付きなのだ。
 食卓に着くと、そこには鶏肉と信じられない量の豆がトマトソースで煮られた皿が並んでいた。ここはフィリピン系のカナダ人の家なので、食事もそういう傾向が強いらしい。ちなみにその後も毎日おぞましい量の豆が食卓に並んだことで、私は一時期公園でハトが豆を食べている姿も見たくないほどまで豆が嫌いになる。ポッポー。

 料理を食べる前に、彼らは家族全員で祈りをささげた。日本で言うところの「天にまします我らの父よ」といったものだと思う。以前『クソガキが日曜学校に行く』というエッセイでも書いたとおり、私は長い間教会に通っていたので、違和感どころか親近感さえ湧いた。日本ではクリスチャンは珍しいのに、この国ではほとんどがそうなのだ。

 翌日はまた違う街を散策し、夕食に豆を食べ、そして眠った。明日からはいよいよ語学学校へ通う。外国での生活が、本格的にスタートするのだ。
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