洗濯にかける思い【水無のイラストエッセイ】
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一人暮らしと結婚生活で八年間洗濯をしていると、たかが洗濯とは言え様々なハプニングやコツがある。子どもの頃は洗濯の手伝いなどほぼしたことがなく、やったとしてもおかんに「雨降ってきたからあんた洗濯入れて!」と突然大声で命令されて取り込むくらいのものだった。
一人暮らしを始める際、おかんが洗濯ばさみやハンガーなど、必要なものを一式買い揃えてくれた。おかげで何の興味もない洗濯グッズにお金をかける必要がなくなり、私はそのお金で服を買った。
始めは洗濯機の使い方すら知らず、こんなにも身近な物さえ動かせないとは本当に現代人なのかと自分の存在を危ぶんだが、洗濯機を回すのなんて慣れればサルだってできる。問題は干すことにあるのだということに私が気付くのはそう遅い話ではなかった。
ある日洗濯を取り込もうとベランドに出ると、二本のハンガーに何も掛かっていないではないか。カラのハンガーを掛けるほど私もアホではない。どこかに行ったのだ。私は「どどど、泥棒!」と叫びかけたが、すぐにその可能性に疑問を呈した。ここは五階建てマンションの四階。しかも明らかに男物のTシャツだけを盗んでいくなんて普通に考えてありえない。私は窃盗犯がベランダに潜んでいないことを確認すると、恐る恐るベランドから下を見下ろした。すると私の服が一枚は地面に落ちており、一枚は隣の建物とのフェンスに引っ掛かっているではないか。
私は大急ぎで階段を駆け下り、お気に入りのTシャツ二枚を回収した。幅広ハンガーに掛けており、軽く引っ張ったくらいでは落ちないので洗濯ばさみを付けていなかったのだが、風が強かったので肩口を引っ張られて飛んでいったらしい。私は風を甘く見ていたのだ。
それからというもの、私は風が轟轟と吹いても絶対に飛ばないと自信が持てるもの以外は洗濯ばさみを挟むようになった。跡が付くのが気に入らなかったが、飛んで行くよりは数倍いい。
またある夏の日、洗濯を取り込もうとした私がベランダで絶叫するという事件が起きた。
私は呑気に鼻歌なんか歌いながら洗濯物の掛かったハンガーを回収していたのだが、恐ろしいことに一枚のTシャツにセミがしがみついており、至近距離で対面してしまったのだ。虫がこの世全ての生物の中で一番怖い私は「ギャーー!」と思わず叫び声を上げ、洗濯物をベランダに投げ捨て、窓を閉めた。セミもあまりの事態に驚いて飛んでいった。
私が放心状態で目を点にして崩れ落ちていると、インターホンが鳴った。絶叫を聞きつけた隣近所の人達が何事かと、見ず知らずの私の身を案じて駆けつけてくれたのだ。私は誤魔化せないなと正直に話したところ、彼らは大笑いして帰って行った。
私はその後洗濯物を取り込む際はハンガーを振って何も付いていないことを確認してから手に取るようにしようとルールを定めた。もう二度と彼らの平穏を邪魔してはいけないのだ。
『洗濯のコツ』などと以前ネットで調べたときに『服はTシャツであっても形が崩れるので裏返して干さない方がいい』と書かれた記事を目にしたのだが、私はこれに異議を唱えたい。私は駆け出しの頃にお気に入りのTシャツを表向きで干していて、二枚ひび割れさせたことがある。プリントTシャツは割れやすいし、一番の汚れの原因である肌との接地面は裏側なのだ。汚い部分を陽に当てないと、落ちるものも落ちないではないか。
私の仕事の帰りが遅い日が続く時など、たまに妻が洗濯をしてくれるのだが、私が干した時と駆け出し見習いの彼女が干した時とでは明らかに乾く速度が違う。私は物によって干す場所を計算しているのだ。例えば風の吹く日には風通りを活かせられるように干すし、ジメジメした曇り空の日にはそういう天気の時の干し方がある。妻は凄いと感心するが、私は八年かけてそのスキルを手に入れたのだ。
しかしそう考えると、五十年も洗濯を畳んでいるおかんはいったいどのような技を持っているのだろうか。私がヒヨッコに思えるほどの、さらに速く乾かす術を持っているのだろうか。
今度帰省した際、話すネタの一つとしてメモに残しておこう。
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