地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

大嫌いな習い事二~習字を習っても字が汚い~【水無のイラストエッセイ】

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 字が綺麗な人の方が成績がいいとか関係ないとかいろいろ言われているが、私の字は古代遺跡から発掘された石板文字のような難読文字だったので、授業中に取ったメモを読み返す気がまったく起きず、結果通信簿は“他人に見られては絶対にいけない代物”と化してしまっていた。

  小学二年の秋、見かねた親はスイミングスクールと並行して、私を家から徒歩三十秒という好立地の書道教室に通わせた。

 教室は生徒が最大七名程度座れるお座敷で、奥に先生用の机が置かれており、毎回行くと課題の続きをやっては先生に添削をしてもらうというスタイルだった。
 初日におかんと共に挨拶に行くと「では先生、硬筆と毛筆よろしくお願いします」と彼女は言った。私は何のこっちゃ分からぬまま道具を渡され、席に着かされた。
 先生は五十代の優しい女性で、丁寧に書道教室について説明してくれた。
「硬筆は鉛筆で、毛筆は墨と筆を使って書くことよ。最初は一緒に見ながら教えるから安心してちょうだいね。試験に合格したらこの本に名前が載るから、たくさん進級して綺麗な字が書けるようになりましょうね」
 先生はそう言って日本書道なんちゃらという本を広げて見せてくれた。本の後ろには前月の試験に合格した生徒の名前が階級ごとに全て書かれており、私は「こんなちゃんとした本に自分の名前が載るのか!」と早くも食いついた。

 私は本に名前が載ることだけを目標にして週一回せっせと通い、月の終わりに試験用の作品を先生に提出して無事進級を果たした。私は自分の名前がこんな立派な本に乗ったと大喜びで家族に自慢し、小遣いをせびった。三十円だか五十円ばかりのお金を得た私は「進級すれば本に名前が載ってお小遣いも稼げるなんていいこと尽くしではないか」とすっかり進級の亡者と成り果て、教室に通い詰めた。

 しかしこの級というのは少し仕組みがややこしく、テレビなどでタレントが「私四段なんですよ~」と言っているのをたまに目にするが、残念ながらあれは間違っていることが多い。
 子どもの部の級や段と、大人の部の級や段はじつはまったくの別物で、子どもの部で八段を持っていたとしても、大人の部では無級なのだ。なのでもし履歴書の所有資格などに書いてしまうと、とんだ嘘つきになってしまうのだ。
 だがそれは仕方がない部分もある。なぜなら子どもと大人を一緒にしてしまうと要求レベルが上がりすぎて子どもがまったく進級出来ず、モチベーションを保てないのだ。なので子どもの部は通っているだけである程度のところまでは自動で進級し、その後は頑張るための目標となる。決して資格を取るためのものではないのだ。

 私は最終的に硬筆五段、毛筆三段まで取った。この辺りになると進級するのもわりと難しく、何回かに一回ようやく上がれる程度だった。“子どもの五段は大人の三級”みたいに紐づけしてくれたら大人になった今でも役立つ資格になるのになと思うのだが、やはり難しいのだろうか。

 四、五回進級して名前が載ると、私はもう新鮮味も特別感も覚えなくなり、ただ惰性で通い続けていた。習字という習い事は子どもにとって負担が大きいものだと私は思う。進級がモチベーションになるのは他の習い事でもそうだが、なにせ練習自体は一ミリたりとも面白くないのだ。ただひたすら模写し、差し戻された箇所をまたひたすら練習する。これのどこが面白いのだろうか。
 日ごとに字が綺麗になっていくのを感じられたならそれは面白いのかもしれないが、三年通っても私の字が古代遺跡の石板から現代日本語になることはなかった。学校の習字の授業では他の生徒より上手く書けたので鼻高々ではあったが、そんな些末な喜びのために日々習字に通うのは苦痛で仕方なかった。ノートの字は見返す気が起きないほど汚く、成績も落ちようがないレベルからさらに落ちていった。

 話は変わって先日仕事で書道教室にロケに行った際「ディレクターのあなたもちょっと体験してみませんか」と先生にちょっと教えてもらったのだが「あらあなた経験があるのかしら」と言われた。もちろん本気を出せばやっていない人よりは基本があるのでしっかりとした字を書くことが出来るのだ。もし私が政財界デビューをして芳名帳などに名前を書く機会が増えれば、あの時やっていて良かったなと思えるかもしれない。
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