地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

人生最大の痛みは本能寺の変【水無のイラストエッセイ】

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『人生最大の痛みは何だったか』という話を友人などとしたことがあるだろうか。
 私は今までいくつか痛い思いはしてきた。幼稚園の時に崖から転げ落ちて頭から血を吹き出し、小学校の時に幼馴染と家の前でボール遊びをしている時に溝の角で頭を打って血を吹き出し、中学の時にヤンキーをぶん殴って手首の骨を折ったりとわりと痛い目にあってきた私だが、私の歴代圧倒的一位は親知らずだ。

  忘れもしないあれは二十二歳の時、一人暮らしをはじめてまだ数カ月しか経っていなかったある日のこと。
 口内に虫歯の予兆のような違和感があり「最近歯医者に行ってないな。そろそろ行かないとまずいかな」などと悠長なことを思っていた。だがまだこの時点では痛みはまったくなかったので、仕方がないといえば仕方がない。

 私は幼少期の不摂生が祟ったのか歯がとても悪く、やたらと虫歯になる体質だった。定期的に通えばいいのに「これは気のせいかもしれない」「まだ大丈夫だと思う」「二、三日経てば痛みは治まるかもしれない」「ギャー痛い!」ということをこの歳までずっと繰り返している。頭が悪いのだ。

 そしてその時も「もう少し様子を見てみよう、気のせいかもしれない」と歯医者受診をなるべく先延ばしにしようと画策していたのだが、どうにもこうにも様子がおかしい。
 普段なら“水がしみる”“ズキっと痛む”といった症状が第一波として襲ってくるのだが、そういったものが来ない代わりに、奥歯が熱を帯びているかのような感覚があった。
「うーんこれは変だないつもと違うぞ」と、虫歯のスペシャリストである私は訝しんだが、決定的な痛みが出るまで歯医者に行く気はなかったのでもう少し様子を見ることにした。そしてこれが、最悪の結果を生むこととなった。

 違和感を覚え始めて三日が経った日の二十時頃、夕食を食べ終えた私は歯が少し痛いことを確認し、これはもうダメだと思って近所の歯医者を調べようとネットを開いた時、何の前ぶりもなしに強烈な痛みがやって来た。正確に言えば前ぶりは三日前から明確にあったのだが、私の知っている“段階的に痛みが増してくるいつものやつ”ではなかったため、判断することが出来なかったのだ。
 しかも痛みは普段の比ではなかった。“キーン”でも“ズキっ”でもなく“ドガジャーン!”だった。口内宇宙大戦争、核ミサイルガトリング砲といったようなとんでもない痛みが右の奥歯を襲っていた。いやむしろ右の奥歯が私を襲っていると言った方が正しいのかもしれない。これまで従順なフリをしてきて、安心した私に特攻をかけてきたのだ。とんでもない反逆行為である。私は五百年以上もの時を越えて織田信長の気持ちを理解し、この反逆者を光秀と呼ぶことにした。

 あまりのことに私は大慌てで薬箱を開け、ボルタレンを飲んだ。バファリンロキソニンには荷が重すぎるということを本能で感じ取っていた。処方薬最強の呼び声高いボルタレンしかこの特攻を防ぐことは出来ない。
 だがボルタレンの防御力はいとも簡単に突破された。十分経っても二十分経っても痛みが治まる気配がまったくないのだ。詳しい人は分かると思うが、ボルタレンで効き目が無いならもうおしまいである。ボルタレンを信仰していた私は膝から崩れ落ちた。もうダメだ、この痛みを緩和する手段を私は持っていない。

 諦めて布団に入り、明日の朝一番早くに開く歯医者を調べて目覚ましをセットした。今出来るのは痛みに耐えて歯医者が開くのを待つことだけだ。
 だが眠ることなど到底不可能だった。光秀の軍勢は時間が経つごとに巨大化し、今や本能寺を完全に包囲しつつあった。私はあまりの激痛に頭を壁に打ち付け、痛みの分散を試みた。はじめはわが身可愛さからトントンという程度だったが、それでは光秀が止まらなかったので壁に穴が空くほどの勢いで打ち付けた。
 やがて白い壁にうっすらと血の跡が滲みだした頃、ようやく痛みは分散され始めた。光秀と信長がピヨピヨしているこの歴史的瞬間を逃してはならないと、私は睡眠薬を服用した。ボルタレンとの副作用があるかなど確かめている暇などない。戦局を左右するのはいつの時代も一瞬の判断なのだ。
 やがて薬が効き始め、私は眠りへと落ちた。疲弊していたのか、夜中に目が覚めることはなかった。朝起きると私は全速力で歯医者に向かい、親知らずを抜いた。どうやら変な角度で生えてきた親知らずが元あった奥歯を圧迫して強烈な痛みが生じたとのことだった。

「しばらく腫れますよ」と言われたが、あの痛みが再発しないのなら腫れようが萎もうがどちらでもよかった。
 家に帰ってベッド周りに目をやると、布団や物は散乱し、白い壁には血がこびり付いており、知らない人が見れば完全に殺人現場だった。そういえば私の中の信長は結局光秀にやられたのだろうか、あるいはギリギリのところで逃げ果せたのだろうか。睡眠薬によって私の本能寺の変はいつの間にか幕を閉じていた。有耶無耶になったことで少しモヤっとしたものの、この部屋で殺人事件が起きていないのなら、何も言うことはないではないか。

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