地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

ワーホリ体験記十~無理難題な英訳をさせられる~【水無のイラストエッセイ】

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 カナダでの留学を経た私は、大した英語力もないくせにかなり調子に乗っていた。一年前と違って今なら外国人とだって話せるんだという自己過大評価が、この後自分を苦しめることになるとは夢にも思っていなかった。

  大阪から神奈川に引っ越した私は、とりあえずの食い扶持として派遣会社に登録し、元々やっていたこともあって映像制作の会社に派遣された。そこは誰もが知る大企業で、応募条件が『英語がちょっと話せて映像制作や画像編集をある程度一人で出来る方』というもので、派遣会社はこの募集要項を見て「こんな鉄人いるかよ」と諦めようとしたが、私が登録していることを思い出して「シメシメちょうどいい鴨が舞い込んできやがった」と私に目を付けた。

 ちなみにこの派遣会社の事で少し書くと、私がその大企業に派遣されたのは登録して一カ月後のことで、登録後すぐは派遣先が決まるまでのあいだ事務の仕事をしないかと言われ、働いていたのだ。そして私が事務をしている間にその鉄人募集の情報が会社に届き、なんだこれと笑っている時に誰かが私のことを思い出したらしく「水無さんこれいけるんじゃないですか!」と声が掛かったのだ。
 雰囲気を察するにどうやら派遣会社はこの案件を何が何でも取りたい様子なので、私は足元を見まくることに決めた。

 最初の提案は時給千二百円だったのだが、私は『これは吊り上げられるぞ』と確信して「とても難しそうなのでこの平均的な時給ではちょっと……」とジャブを入れた。すると向こうも「たしかに」と言って持ち帰った翌日に「千五百円でどうですか」と言ってきた。
 普通の人ならここで折れるかもしれないが、私は生粋の大阪人。以前『値切りの文化』でも書いたのだが、値段交渉はお手の物なのだ。
「ありがとうございます。ですが英語を使える映像制作者というのは他に中々いません。辞めずに長期続けますので、もう少し時給は上がらないでしょうか」
 私は千七百円になればいいなと思ってそう交渉した。時給が二百円違うと、月百七十時間働いた場合三万四千円も違ってくる。こちらも必死だ。

 すると大企業との契約を取りたい向こうはついに折れた。私を高時給で釣ってこの案件を手に入れる他ないと、出し渋っていた最終金額“時給二千円”を提示してきたのだ。
 これには私も驚いた。心の中は(にににににににせんえん!?)とベートーベンの運命がジャジャジャジャーンと鳴り響かんばかりに動揺していたが、そんな様子をおくびにも出してはいけない。冷静を装い、私は引きつった笑顔で契約を結んだ。

 そうして入った大企業だが、話に聞いていた『英語がちょっと話せて~』という部分が大嘘であることがすぐに露呈した。入って一週間ほどが経った日、私はとんでもない依頼を受けた。
「このスペイン人が喋っている五分の動画を和訳してテロップに起こしてください」
 私は話を聞いた瞬間顔面蒼白、周章狼狽といった感じで、先日は自分の脳内が勝手に演奏していただけの運命が、今度はどこぞの高尚な交響楽団が目の前で生演奏を始めたかと思うほどのジャジャジャジャーンを喰らった。

 面接でもリスニングが一番不得意である旨を伝えていたはずだが、動画を見もせずに無下に断るのもまあよろしくない。私は日本人の喋るジャパニッシュのように、カタカナ発音で聞き取りやすいものを期待して動画を再生した。
「ウィイルプロッバイッドゥスペッキュタッキュンラァーショウズ!」
 ……おしまいだ。私はこのイケメンスペイン人が何について喋っているのかさえ理解出来なかった。私は世界で一番発音が美しいとされるカナダで英語を学んだので、スペイン人の巻き舌満載の強烈な英語を聞き取ることなど出来なかったのだ。

 私は『面接で言った』という事実を盾に、さすがにオーバースキルであることを伝えたところ、時間が掛かってもいいしそこまで正確でなくてもいいので、ニュアンスでやってほしいと言われた。
 こちらとしてはニュアンスどころかあのイケメンが最新技術の発表をしているのか自分が過去にやらかした変態行為について懺悔しているのかさえ分からないのだ。しかし時間が掛かってもいいとのことだったので、私はなんとかやってみようと努力した。これは自分のためにもなるかもしれないのだ。

 この巻き舌英語を普通に聞き取るのは不可能だと早々に判断した私は、まずYouTubeの非公開アカウントに動画をアップし、自動翻訳機能を使った。するとどうだろう。彼の英語がみるみるうちに翻訳されていくではないか。先ほど書いた部分は「We'll provide spectacular shows!(すげぇ壮大なショーをお届けするぜ!)」だった。彼は自分の性癖を唐突に暴露していたわけではなかったのだ。

 修正は必要だが、これならいけると踏んだ私はどんどんと翻訳機能を駆使して動画を完成させた。すると想像以上に早く出来たことに彼らは大いに喜んだ。だが私は翻訳機能を使ったことを話し、このレベルの仕事は自分には難しいことも伝えた。

 それもあってか、しばらくはそういった緊急事態も起こらずに平穏な日々が過ぎていったのだが、半年後、不意にその時はやって来た。
「今度海外の支部からお偉いさんが来るので、通訳をお願い出来ないですか。それとインタビューも撮るので、また和訳テロップをお願いします」

 私の苦悩はこの後も続くのであった。
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