地獄の画家卍イラストエッセイ水無

俳優として全国CMで主演を務め、入社した映像制作会社で「喋りが面白いから」となぜかYouTuberにさせられてうっかり1,000万回も見られてしまう。地獄のようなイラストを添えたエッセイを毎日公開中。書籍化したいので、皆さん応援してくださいね☆

真夏の恐怖!サイパンでサメのトラウマを【水無のイラストエッセイ】

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 私の人生初海外旅行は、小学六年の春休みに連れて行ってもらった五家族合同サイパン旅行だった。
 我が家は隣近所と非常に仲がよく、子ども達の歳も近かったことから、同行した幼馴染四人は家族同様だった。

  我々の住む阪南市は海に隣接しており、車で十分も行けば海水浴場もあるため海自体はなんら珍しくなかったのだが、サイパンの海の透明度はそんな海の町に住む我々ですら虜にされてしまうほど素晴らしかった。我々は見たことのない綺麗な海と初めての外国に降り立った興奮とで連日海に潜り、魚にエサをやったりシュノーケリングをしたりと、サイパンの海を満喫した。英語が堪能なおばちゃんが全てやってくれたので、我々がへんてこりんな英語を操る必要などなかった。

 そんな楽しい旅行も日程の半分が過ぎ、とうとう私は最大級のトラウマを二つも同時に植えつけられる日を迎えた。
 その日は昼からパラセーリングというアクティビティを楽しむことになっていた。これは何かと言うと、二人乗りのパラシュートを装備して中型のボートに引っ張ってもらうことで、凧あげのように空を飛ぶことが出来るアクティビティだ。
 この綺麗な海を空から見渡すことが出来ればどれほど感動するだろうかと、私は数日前からパラセーリングを非常に楽しみにしていたのだ。

 英語しか話せないガイドの手招きに応じて甲板に行くと、発射装置に取り付けられたパラシュートを装備した。すると沖に停泊していたボートが猛スピードで水上を進み始めた。私は一つ年下の男の子なっちゃんと同乗することになった。私が前、なっちゃんが後ろだ。今はまだロックが掛かっているので飛びはしないが、風を受けたパラシュートが凄まじい勢いで煽られている。
「ゴー!」というガイドの掛け声と共に男がロックを外すと、電動式の太いワイヤーがキリキリと解き放たれ、我々はあっという間に五十メートル上空へ浮かんだ。風に乗って上空へと舞い上がるその様は本当に凧のようで、私は透き通って奥底まで見える海や南国独特の木々が並ぶ島々、そして日本とはまた違う彩度の高い青空を眺めたりして、パラセーリングを楽しんだ。

 問題だったのは後ろの男だった。私が静かに景色を見て感動しているのに対し、彼は大声でキーキーと海が綺麗だの凄く高いだのと叫び散らしていた。私は少しうるさい旨を伝えると、彼は何をどう取ったのかさらに興奮して手足を激しくバタつかせた。すると一本のロープで繋ぎ止められた我々のパラシュートは上空で不安定に揺れ始めるではないか。彼の暴走する手足と密着状態の私は激しく揺さぶられたことでパニックになり、大声で彼を怒鳴りつけたが、怒られたことで彼は泣き出してしまい、暴れることをやめなかった。
「早く下ろしてー!」
 私はボートに向かって何度もそう叫んだが、声は風と波を切るボートのエンジン音にかき消され、我々の回収が予定より早く行われることはなかった。
 揺さぶられてパニックになった私は気分が悪くなり、頭がガンガンし始めた。そして風と後ろの暴れる男によってパラシュートが不安定な状態が続いたことで、私は高所恐怖症を発症した。普段山肌を滑り降りて遊んだりしていたサルの私にとって高所はただの遊び場にすぎなかったのだが、このまま暴れられて落下すれば死ぬんだと思うと、急に自分は死に近い場所にいるのだと認識し、いてもたってもいられなくなった。
 さらに追い打ちをかけるように、私はもう一つの死を感じた。自分の真下の海に巨大なサメがいるのを発見したのだ。ゆらゆらと揺れる水面の下に隠れた黒く巨大なサメが自分を殺そうとしている。私は脳内で爆音のエレクトリカルパレードが繰り広げられているかのようなショックを受け、気絶しそうになった。それは透明度が高いために海底にある大きな黒い岩が見えていただけなのだが、不安定なパラシュートと精神にドンブラコと揺られている私が錯覚してもなんら不思議ではなかった。
「下ろしてー! 早く下ろしてー!」
 私がそう叫び、なっちゃんは後ろで大暴れで泣き叫ぶ。パラシュートは揺れ、真下には巨大な人食いザメ。この世の恐怖を詰め込んで持って来られたかのような地獄絵図である。言葉が悪くて申し訳ないが、私は生きて無事陸に上がったらこの後ろの男を殴り殺してやりたかった。それほど私は恐怖と怒りの渦に巻き込まれていたのだ。

 早く下ろせという願いは聞き入れられず、既定の時間になるとワイヤーが巻かれ始めた。高所の恐怖は間もなく解決するが、最大の問題である人食いザメが今や遅しと私の降下を待っている。
「早く! ボートに! 戻して!」
 私はそう何度も絶叫したのだが、日本語を一ミリも理解していないガイドは面白がって我々を安全なボートの甲板にではなく、人食いザメが待ち構えている地獄の水面へと我々のお尻を着水させた。
 この時、私の恐怖は最高潮に達した。完全にパニックホラーである。私が青筋を立てて死が近いことを叫ぶと、異変に気付いたおばちゃんが英語でガイドにすぐ引き上げるよう伝え、私は岩のサメに食われることなく甲板に戻った。

 戻ったら殺してやろうと思っていた私だが、もうそれどころではなかった。生還の安堵から私は崩れ落ち、気を失ったのだ。

 あれからはや二十年。私は未だ高所も海も大嫌いだ。楽しかったサイパン旅行はほとんどサメのことしか覚えておらず、非常にもったいないかぎりだ。
 だが一つだけ教訓を得たことがある。人はパニックになると脳みそがおかしくなるということが分かったので、私は常に冷静にいられるよう心掛けている。
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